[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

大ヒット韓国映画『新感染』『半島』のヨン・サンホ監督作! 清濁併せ持つ信仰心を描いた話題作『フェイク~我は神なり』

2020/07/31 19:00
崔盛旭

近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。しかし作品の根底にある国民性・価値観の理解にまでは至っていないのではないだろうか。このコラムでは韓国映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。

『フェイク~我は神なり』

 依然として世界で猛威を振るっている、新型コロナウイルス。韓国も例外ではないが、一時は抑え込んだと思われた感染拡大を一気に爆発させ、国民の非難の的になった集団がある。「신천지(新天地)」という新興宗教集団だ。彼らは、“3密”どころか、感染予防を完全に無視した大規模な集会を開き、集会に参加したことを隠して全国に感染を広めたとして、文字通り袋叩きにされたのだ。

 最初は行方をくらましていた教祖イ・マンヒも事態を重く見て、記者会見で国民に謝罪し、当局の検査に積極的に協力すると約束したのだが、国民や政府の憤りは収まらず。ついにはソウル市から宗教集団としての法人資格の取り消し処分を受けた。

 新興宗教団体によるコロナ感染拡大のニュースは日本でも報道されたが、その後、韓国では「新天地」をめぐって別の問題が浮上した。信者たちの財産の詐取や監禁といった、以前から疑われていた違法行為が再び指摘されたのだ。実際、「新天地」の集会に出たきり行方不明になった人が大勢いるといわれており、中には家族に黙って全財産を「寄付」した人もいるという。信者の家族や元信者たちは詐欺の被害を裁判で訴えているのだが、宗教という非常に個人的な領域の問題であるだけに、「自分の意思」なのか「新天地の強制」なのかの明確化が論点になっている。

 かねてから韓国では新興宗教だけでなく、宗教を利用した事件や犯罪が度々社会を震撼させてきた。教祖を含む32人が集団自殺をした1987年の「五大洋事件」、もうすぐ世界の終末が来ると信者たちを騙して財産を着服した92年の「タミ宣教会“携挙”詐欺事件」、韓国の天然記念物に指定されている犬「チンドッケ」を崇拝する集団による2014年の「幼児殺害・遺体遺棄」などがその代表的なものである。こうした韓国の新興宗教にはキリスト教のプロテスタントから派生した教団が圧倒的に多く、また団体の中で犯罪を犯すケースも少なくない。

 プロテスタントの牧師やプロテスタント系新興宗教の教祖による犯罪は、検察の統計によれば年々増えており、なかでも男性牧師/教祖による女性信者へのセクハラ事件が最も多い。「神の使者」に逆らうことはできないという信者の信仰心を利用した卑劣な犯罪を、牧師や教祖たちが犯しているのだ。

 今回のコラムでは、まさにこのような宗教を利用した犯罪をリアルに描き、高い評価を得たアニメーション映画『フェイク~我は神なり』(ヨン・サンホ監督、2013)を取り上げ、韓国における宗教や信仰について触れてみたい。監督のヨン・サンホは、近年日本でも大ヒットしたゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)を手掛けているが、デビュー作はアニメーション映画で、韓国では珍しいアニメと実写の“二刀流”監督として知られている。

 本作は、国内で最も優れたインディーズ映画に与えられる「第16回今年の独立映画賞」や、「第46回シッチェス国際映画祭」で最優秀アニメーション賞を受賞するなど、国内外で大きく注目された。興行面でも、スクリーン確保や配給が厳しいために観客動員1万人以上なら大成功といわれる韓国インディーズ映画界において、2万2,000人以上を記録するヒットとなった。ヨン監督は現在、『新感染』の4年後の世界を描いた、新作実写映画『半島』が韓国で大ヒット中、今後がますます楽しみな映画作家である。

フェイク〜我は神なり
韓国の宗教観、キリスト解釈は興味深い
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