[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

韓国映画『マルモイ』、「ハングル辞典」誕生までの物語ーー「独自の言葉」を守る意味とは

2020/07/17 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

「独自の言葉」を守る意味

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 ハングルとは、1443年、朝鮮の世宗大王によって作られた固有の文字である。だが長い間、中国の強い影響下にあった朝鮮では、漢字が文字としての公用語とされ、エリートは漢字を使っていたために、ハングルは子どもや女性、身分の低い者のみが使う「卑賎な文字」として扱われてきた。ハングルが正式に国家の文字として指定されたのは、誕生から400年近くたった1894年。当時は日本を含む列強が朝鮮の国家主権を脅かし、朝鮮は国家レベルでの強い共同体意識を必要としていた。共同体意識とはつまり、人々が「朝鮮」という国に暮らす同じ「朝鮮人」であると認識することにほかならない。そのために最も重要だったのが、共通の言葉である「朝鮮語」であり、それを表記する「ハングル」だったというわけだ。

 ベネディクト・アンダーソンという政治学者が提唱した「想像の共同体」という概念がある。「国家」とは初めからあるのではなく、後から作られるものである。そしてそれは、例えば共通の言語を通して個人個人が想像するものであり、あくまで「想像的な」構築物でしかない。つまり赤の他人同士でも、共通の言語・共通の文字を通して同じ「共同体」の意識を持つことができる、ということだ。

 劇中でジョンファンが何度も口にする、「言葉は民族の精神であり、文字は民族の生命」というセリフは、逆に言えば「朝鮮語」と「ハングル」こそが「民族=想像の共同体」を成り立たせているという意味でもある。当時日本によって、朝鮮固有の言葉と文字が奪われようとしていた時代ゆえに、朝鮮人たちは民族の証しである言葉を守ることで、朝鮮という共同体を守ろうとしたのだ。

 さて、時は流れ、時代は大きく変わった。K-POPや韓流ドラマなど韓国文化が世界に広まる中で、ハングルを勉強する人の数も増えている。私が非常勤講師を務めている大学の授業でも最近、講義に対するコメントや質問を書いて提出するリアクション・ペーパーに、ハングルでコメントを書いてくれる学生が何人かいる。外国語として一から学んでいる学生たちの言葉使いや文字は、正しく、とても丁寧だ。本作で描かれたように命を懸けてハングルを守った人々を思ったとき、彼らも天国できっとほほ笑んでいることだろう。ふとそんなことを想った。

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

最終更新:2020/07/17 20:24
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アイヌ民族からも言葉や文化を奪おうとしていたよね……

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