[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

韓国映画『1987』、大学生の「死」が生んだ市民100万人の“権力”への怒り――歴史的「6月抗争」の背景とは

2020/06/26 19:00
崔盛旭

民主化運動の裾野を広げた、大学生の役割

(c)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED

 今作の主要登場人物はヨニを除く全員が実在し、ハン・ビョンヨンは、ハン・ジェドンとチョン・ビョンヨンという2人の人物を、名前を合わせて1人のキャラクターに仕立てている(なおハンはメディアからの取材にも応じているが、チョンは今でも一切のインタビューを断り続けている)。その中でも物語、そして「6月革命」の導火線となったのは、大学生の存在だ。

 まずは韓国における「学生運動」の歴史に触れておきたい。社会のさまざまな階層の人々が弾圧を受けながら軍事政権に命がけで抗った80年代、その中心には常に大学生たちがいた。

 韓国の学生運動は、植民地時代の1919年に朝鮮人留学生たちが東京で起草した「二・八独立宣言」が最初と言われる。それが契機となって、直後には歴史的にも有名な「三・一独立運動」が起こった。日本による植民地支配下において、学生たちは幾度となく「抗日」運動を起こしたが、45年の独立後、今度はイ・スンマン政権の腐敗に立ち向かい、60年の「四・一九革命」では政権打倒に成功した。どんな時代であっても学生たちは、常に自分たちに暴力的な権力を振るう相手と対峙し、恐れずに立ち向かっていったのだ。

 60~80年代のパク・チョンヒからチョン・ドファン政権下では、独裁政権を倒して民主化を実現することが学生たちの目標となり、アカに認定され、拷問を受け、時には死に至っても彼らはひるまなかった。無数の市民が虐殺された光州事件(80年)の真相究明を求めると同時に、光州事件には実はアメリカが加担していたのではないかという疑いから、80年代には韓国各地でアメリカ文化院放火、大使館占拠といった反米運動が盛んになった。一方で学生たちは、社会を変えるためには大学生というエリートだけの運動では不十分であり、もっと大衆的な広がりが必要だとして、労働者や農民たちへの啓蒙活動にもいそしんだ。

 大学生の身分を隠して工場に偽装就職をし、経済的な理由から進学をあきらめた同世代の若者に対して勉強会を開いて、労働環境改善のための闘いに導いたり(工活=工場活動)、あるいは夏休みを利用して人手の足りない農家を手伝い、農村が抱える問題を農民と一緒に議論して連帯を強めていった(農活=農村活動)。そうした中で軍事独裁や光州事件も取り上げられていったのだが、学生たちのこうした活動を、政府はすべて「アカ」と決めつけて弾圧した。

1987、ある闘いの真実【Blu-ray】
結束して抗えば変わると信じられるようになりたい
アクセスランキング