[連載]白央篤司の「食本書評」

“私の料理”の幸せに包まれる! 『しょうゆさしの食いしん本スペシャル』食べる楽しみと喜びがあふれるレシピ

2020/06/06 14:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

『しょうゆさしの食いしん本スペシャル』 (スケラッコ 著、リイド社)1500円(税別)2020年4月30日発行 A5判

 食べる楽しみと喜びがこんなにも満ちあふれたやさしい本を、久々に読んだ。スケラッコさんという方のフード・コミックエッセイ、食いしん坊のライター仲間がSNSにアップしていて、気になったのだった。

 まずカバーに並ぶ食べものの絵に、やられた。なんてまあ、おいしそうな。チャーハン、オムライス、フルーツサンド、エビチリ………おいしそうに描かれているだけでなく、著者が向かいあったときに感じたであろう興奮が伝わってくる。「は、早く食べたい……!」ってきっと思ったんだろうな。即、注文してしまった。

 はい、買ってよかったです。

 ざっくり言うと、前半は日々の家ごはんが紹介され、後半は食べ歩きの記録という構成。読んでいる間、もうなんとも「ホガラカー」な気持ちでいっぱいに。人が心から料理を楽しみ、自分の好きな味に満たされているのって、いいもんですねえ。そばで見ていて、こっちも幸せな気持ちになる。

「私の料理は『なんとなく』
調味料はだいたい目分量
この本で記載されている分量も目安ですので
お好みの加減にしてもらえたら嬉しいです!」

 と、最初にことわりがある。このゆるさがうれしい。

 けれど、お米を炊くときは「きちんとはかります」とスケラッコさん。調味料についても、醤油・塩は一般的なもの(きっと値段の手ごろなもので、特別なものを使ってるわけじゃないという意味だと思う)だけど、みりんは本みりん、料理酒はパックの日本酒、そして油は「九鬼 太白胡麻油」を使っているというところに、大事にしているポイントが見えてくる。

 みりんのまろやかさ、甘みは「みりん風」調味料では物足りない。実際スーパーで安く売られているものは「みりん風」が多いのだ。「料理酒」として売られているものは塩が添加されているものも多い。太白の胡麻油はさらっと仕上がるのがいい。

 スケラッコさんの言葉は実に正直で、何のてらいもない。タイカレーはレッドカレー、グリーンカレー、イエローカレーの3種類が有名だが、「私は味の違いがあまりわかっていません」と書き切るところに唸った。なかなかこんなふうに素直に告白できるものじゃない。そしてワカモレのページでは、チリやパクチーを入れるところを「家にないので省略します」「ワカモレじゃなくワカモレ風ですね~♪」とくる。

 これ、これですよ! そう、家の料理だもの、「私」の料理だもの、「~風」でじゅうぶんだ。

 自分がOKならそれでいい。マルちゃん焼きそば1パックが108円で「特売してる!」と反応してしまうところとか、100g298円の牛肉を買う際に「ぜいたくかな……」とためらうところなど、地に足のついた生活人としての感覚にもすごく共感。

 ああ、書きたい感想が多すぎる……! 本の中で紹介される料理もいろいろ作ってみたけど、特に気に入ったもののひとつが、マルタイラーメンを使った「れいめん」(30ページ)。麺の食感とつけダレ、冷やし麺としても実にいい。知らなかったなあ。

しょうゆさしの食いしん本スペシャル
おいしいって幸せ〜