歌う俳優が台頭するのはナゼか(後編)

なぜ「ポスト福山雅治」は現れないのか?  湯山玲子が語る「歌う俳優」の進化論

2020/06/05 19:00
サイゾーウーマン編集部

 石原裕次郎、小林旭、渡哲也、60年代の映画黄金時代に活躍したスター俳優たちの多くは歌手活動を行なっていた。時は流れ、吉田栄作、織田裕二、江口洋介、反町隆史ら90年代のトレンディ俳優のブームを最後に、00年代に入ると俳優の歌手活動はすっかり廃れてしまった。 だが、2020年代を迎えたいま、菅田将暉、ディーンフジオカ、新田真剣佑といった若手俳優たちが彗星のように現れ、俳優の歌手活動路線をふたたびアップデートしはじめている。

 この背景にはどのような事情があるのだろうか、音楽とジェンダー論に明るい著述家の湯山玲子さんに分析してもらった。(前編はコチラ

――俳優さんの歌手活動に話を戻すと、やはり福山雅治さんの存在は避けて通れません。90年代に大ブレークした福山さんの登場以降、玉木宏さん、藤木直人さん、藤重政孝さん、大浦龍宇一さんなど、俳優兼歌手として活動した方は少なくありませんが、同じように成功をしたとは言い難いです。

湯山玲子(以下、湯山) これはひとつの回答があって、ギターを持って歌うフォークシンガーって、ライブで鍛えているから、みんな幕間の語りがうまいんですよ。ご存じのように、さだまさしなんか、年末にNHKで見るラジオのような特番をやっているけれど、トークが達者です。福山もずっとラジオやっていたから、自分の言葉でしゃべれるわけ。そうしたフォークのDNAがあるかないかだと思います。泉谷しげるも、なぎら健壱も、語って弾いて語って弾いて、それが反戦歌だったり、社会運動につながっていったわけ。だからあのスタイルというのは、自分の言葉を持っている人じゃないと成立しないんだね。ちょっと顔のいい俳優が形だけマネしても難しいと思う。

——一方で、俳優の歌手活動にはリスクってないんでしょうか? たとえば、97年に自身のテレビドラマの主題歌でデビューした反町隆史さんなんかは、曲はヒットしたんですが、ちょっとネタっぽく消費された感じも否めません。

湯山 自己表現として歌手活動をするようになると、やっぱり歌詞の世界観をどう展開させるかは考えどころだよね。例えば映画に付随したようなものなら、映画の世界観で通せばいいと思うけど、そこから切り離して裸になったときに、何を歌うのかが大事。特に男性の歌詞は難しいと思うんですよ。女の子だったら、カフェでのときめきデートだったり小さな日常をモノローグで歌ったりできるけど、男を主体とした恋愛の歌詞ってちょっと思いつかない。

——それは根本的な問題ですね。

湯山 そうそう、これはJ-POP全体の問題でもあるけど、男のaikoがいないんだよね。

——共感できる男心を書ける男性アーティストが少ないと。

湯山 そうそう。だから、応援ソングばっかりでしょ。HIPHOPの歌う男らしさは共感するようなものじゃないし。「男心」と「男らしさ」がセットだった昔は、河島英五みたいなフォークや演歌の一部のシンガーがそれをやっていたと思うんだけど、いまは男の人がそういった男らしさの議案から、どんどん逃げようとしてるじゃないですか。そもそも「男らしさ」なんてものが廃れてきている中で、「男心」の輪郭がおぼつかなくなっているというか、語れる言葉がなくなってきている。

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