『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』心の問題をゼロにしようとするから苦しい「夜だけ開く心の診療所  ~生きづらい時代の物語~」

2020/05/25 17:33
石徹白未亜(いとしろ・みあ)
『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。5月24日は「夜だけ開く心の診療所  ~生きづらい時代の物語~」というテーマで放送された。

あらすじ

 精神科医の片上徹也は大阪ミナミの繁華街アメリカ村にある、夜だけ開く精神科診療所「アウルクリニック」で患者と向き合っている。開院して6年で4,000人近い患者が同院を訪れ、その多くは20~40代の若者や働き盛り世代だ。

 片上は昼間はいくつかの総合病院の精神科で勤務医として働き、夜はアウルクリニックで働く多忙な生活を送る。片上は27歳の研修医時代にくも膜下出血で倒れ生死の境をさまよった経験がある。1年半のリハビリで医師に復帰したが、左半身の麻痺が後遺症として残り、つい右側に傾きがちになるので、そのアンバランスさを補うために診察室には鏡を置いている。

 片上の診療所には子どもを産めない自分に価値はないと悩む保育士、自分の指の皮を剥くのを止められない女性、幻覚、幻聴がやまない女性、窃盗癖がある男性、パワハラで退職しうつ状態から回復できない男性など、さまざまな人が訪ねる。「どうすれば患者に寄り添うことができて、気持ちを楽にさせられるか」をテーマに片上は今日も診察を続ける。

心の問題をゼロにしようとするから苦しい

 今回印象的だったのが、指の皮を剥くのをやめられない女性だ。指輪をしていたすらっとした手は、指の先だけが何度も皮を剥き続けていたためか、ぷっくりと赤かった。出血するまで皮を剥くのをやめられず、机に皮の山ができるという。

 番組内では、この女性が過去や現在に精神的負荷がかかるような出来事があったと話しているわけでもなく、本人にも自分が指の皮を剥く動機がよくわかっていないように見えた。ほかの精神科クリニックを訪ねるも、そのうち治る、という気休めのような診断をされていたが、「バカげてるとわかっているけどやってまうのは強迫性障害っていうのがメインかなと思います」と片上は診察し、薬を処方したうえで「(この問題を)ゼロにせんでもいいかもしれん。ゼロにせんでも(心と体の状態が)エエわを目指す」と話し、その言葉に女性は安心していた。

 この「ゼロにしなくていい」には覚えがあった。以前、ゲーム依存対策の会合に参加した際、治療に携わる精神保健福祉士の齋藤広美氏が以下のように話していた。「人生はしんどい、苦しい、解決できないことのほうが多く、そんな中どう生きていくかです。ただ、『しんどい、苦しい、解決できないことを持ち続ける力』が弱いな、と(ゲーム依存の)患者さんを見ていて思うことがあります。生きづらさを誰かに話したりして『減らした上で、持ち続ける、抱えていく』ことができず、耐えられなくなってしまうんです」。

 この発言は片上の「ゼロにしなくていい」と通じるものがあるだろう。精神医療の臨床に携わる人たちの「ゼロにしなくていい」という考えが、もっと一般に広まれば、楽になる人は増えるのではないだろうか。

 番組内では職場のパワハラが原因で退職し、その後もうつ状態が続き、以前のように笑えなくなったり、感情のコントロールができず母親に手を上げてしまい苦しむ男性が出てくる。その男性は「前のように戻りたい」と切実な思いを話していた。

 しかし、「前のように戻りたい」は「(この問題を)ゼロにしたい」ともいえる理想だ。理想が高すぎれば、現実がそれにそぐわず失望が増えていきやすい気もする。一方で「ゼロにせんでも、エエわ、を目指す」というのは劇的な解決がゴールではないし、奥歯に何かモノが挟まったような「スッキリ」としない状況だが、現実的な落としどころのように思える。「ゼロにしなくていい」というのは、「ゼロにしようとするから苦しい」ともいえるのではないだろうか。

片上徹也 夜しか開かない精神科診療所 Book
ゼロにせんでも、抱えながらエエ感じ目指します

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