佃野デボラのホメゴロシ!

『M 愛すべき人がいて』浜崎あゆみ役・安斉かれんの“奇跡のような演技力”をホメゴロス!

2020/05/02 19:00
佃野デボラ(ライター)

『M 愛すべき人がいて』もし千鳥ノブが副音声を担当していたら

 とにかく安斉の佇まい・表情・しゃべり方・発声・動き方・姿勢・全体を包むオーラが、このドラマのなかで求められるアユのキャラクターとドンピシャに合致しているのだ。もちろん狙い澄ました企画・脚本・演出の妙は前提としてあるのだが、安斉の“原石”感が、このドラマの面白さを大いに牽引していると言ってもいい。いや、原石どころの話ではない。もはや切り出したままの石の肌、野面(のづら)である。

 第1話で売れない三流タレント時代、アユがドラマで端役をもらったシーンが白眉だった。あまりの大根演技に監督から激しいダメ出しを食らうのだが、こんなにもナチュラルに、あたかも演技していないかのように「芝居がヘタという芝居」をこなせるヒロインはそういない。

 第1話クライマックスの噴水前のシーンもたまらない。「A VICTORY」からの引き抜きを阻止しようとする所属事務所・中谷社長(高橋克典)の迫害を恐れ、「マサさんごめんなさい。アユ、アユ……」と泣きながらたどたどしく語り出すシーンなど、やしろ優がカリカチュアライズする「浜崎あゆみのしゃべり方」をも凌駕して、むしろ「あろれ、芦田愛菜だよ?」に近づいており、もう爆笑で失神寸前。「神様、安斉かれんをありがとうございます」とテレビの前で跪き、祈りを捧げずにはいられなかった。

 さらに第2話では物語の真髄、そしてこのドラマにおける安斉の存在意義にも抵触するシーンが展開される。マックス・マサが「い〜いダイヤの原石だ(アユの頬に触れながら)」「自分はダイヤの原石なんだと思えば、その時点でそうだ」と切り出すと、アユは野面感たっぷりに「アユは……アユはダイヤ……アユはダイヤになる。ダイヤになる!」と応じる。もし千鳥ノブが副音声を担当していたら「大野面(おおのづら)じゃ!」と間髪入れずに叫んでいたことだろう。

 安斉の野面の魅力を存分に引き出す、よく練られた脚本にも唸る。「アユ……負けない!」「アユ……できるようになるのかな……」「♪おーあいらびゅ〜 ♪おーあいらびゅ〜」(レッスンでの歌唱シーン)など、リモートワークで鈍りっぱなしの腹筋を存分に鍛えてくれる台詞群はサービス満点だ。それにしても、「はい」「うん」などたった2文字の台詞でさえ、彼女の台詞回しのユニークさが屹立しているのだから、返す返す稀有な材器である。

 第2話ラストシーンでは、数年後にミリオンヒットを飛ばし一世を風靡したアユが巨大スタジアムで「Boys & Girls」を歌う姿がある。「これまでの野面っぷりは、成功して垢抜けていく未来の姿の前フリだったんですよね! そのプロセスを見られる。なんという至福!」と前のめりに見入るも、あれ……? 「みんなー! 空に虹がかかったなー」ってMCが野面だぞ? さらに、浜崎本人の音源に乗せたリップシンクもかなり野面だ。どういうことだろう? いや、そういうことなんだろう。

 第3話(5月2日土曜日放送予定)では、さまざまな試練と苦難を乗り越え、マックス・マサがアユを“アーティスト”として売り出すまでが描かれるそうで、アユの立ち姿や発声がどう変わっていくのかに注目だ。ところが予告映像を何度見返しても、相変わらず野面のままだ。つまりこれは、本作品の放送終了後、安斉をほかのドラマや映画で見られる可能性は、彼女のアメイジングなポテンシャルのために「ないに等しい」ことを意味するのだろう。賭けてもいい。そう、これは、今この刹那にしか見ることのできない、儚くも貴重な野面なのだ。その輝きを一瞬たりとも見逃さず、最終話まで刮目して見届けよう。

佃野デボラ(ライター)

佃野デボラ(ライター)

ライター。くだらないこと、バカバカしい事象とがっぷり四つに組み、掘り下げ、雑誌やWebに執筆。生涯帰宅部。

最終更新:2020/05/02 19:00
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