[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

韓国映画『国家が破産する日』が描く、20年前の経済危機と壊れた日常――終わらない格差と不信

2020/04/24 19:00
崔盛旭

日常を一瞬で粉々にする、IMFという「爆弾」

(c)2018 ZIP CINEMA, CJ ENM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

 私は1988年、作家を夢見て大学の国文学科に進学した。だが軍事政権打倒やオリンピック反対のデモによって大学生活は破綻していたため、さっさと兵役を済ませてしまおうと1年の冬休みに志願入隊した。当時韓国では、就職できない学科のトップに国文学科が君臨しており、また貧乏だった私に作家の夢を見続ける余裕はなく、復学後は死に物狂いで就職活動のための勉強に専念した。そして10社以上の試験に落ちた末、96年、卒業と同時に私はかろうじて損保会社に就職した。そして97年秋、一人前の社会人になったという自負心で充実した生活を送っていた私の日常を一瞬で粉々にしたのが、IMFという「爆弾」だった。

 当時、IMFの管理下に置かれた金融監督院による徹底した会計監査により、達成できるはずのない命令を与えられた会社はまず、「給料の支給停止」という措置に出た。ただし本当に給料を支払わないと犯罪になるので、社員の同意を得た上で、社員は会社から給料を「借りる」形で現金を受け取り、会社にとっては「支出」ではなく「貸出」になるため会計上の資産は減らないという手段を講じたのだ。あり得ないことだと思われるだろうが、一銭ももらえないよりはマシだと、私も含めて多くが同意した。そして会社が次に打った手が「希望退職者の募集」だった。

 会社自体が外国企業に売られ、そうなれば退職金ナシのリストラというウワサが飛び交い、早期退職すれば退職金に6カ月分の給料が上乗せして支給されるという話に私は飛びついた。そして98年、3年勤めた会社を辞めて将来設計も何もなくなった私は、好きだった日本映画を勉強しようと日本留学を決意、後先は考えずに、とりあえず日本行きの飛行機に乗ったのだ。

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 しばらくして会社はウワサ通りイギリスの保険会社に売られたが、その会社もすぐに韓国から撤収したため、最後まで粘っていた社員も失業の憂き目に遭った。IMFは韓国という国家の未来を大きく変えただけでなく、その中で右往左往するしかなかった多くの「普通の」人々の未来をも大きく変えてしまったのだ。

 映画のラストは、不動産投機やドルの買いだめで「成り金」になったユンと、なんとか生き延びた町工場の社長ガプスの今を映し出す。富める者はますます富み、貧しい者は永遠に貧しいままであるその格差は、「一生懸命働く者が報われない」と指摘される韓国社会の分断を象徴し、「誰も信じるな」と叫ぶガプスのセリフは、その間に横たわる不信を物語っている。ファクションとしてのこの作品が訴えている問題は、まさにそのセリフに凝縮されている。乗り越えなければならないのは「経済危機」だけではないのだ。その危機が生み出した人と人の間の「不信」が20年以上たった今の韓国でも依然としてまん延していると、警鐘が鳴らされているのだ。

崔盛旭(チェ・ソンウク)

1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

最終更新:2020/04/24 19:00
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