『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』現実から逃げる中年と決意するハタチ「余命3年の社長と刑務所を出た男 後編~塀の外の挫折と旅立ち~」

2020/04/13 18:40
石徹白未亜(ライター)

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。4月12日の放送は「余命3年の社長と刑務所を出た男 後編~塀の外の挫折と旅立ち~」。

『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

あらすじ

 元受刑者を日本で最も受け入れている札幌市の北洋建設。約50年前から元受刑者を積極的に採用しており、その数は延べ500人を超える。全国の刑務所に同社の採用募集ポスターが貼られ、毎日のように雇ってほしいと手紙が寄せられる。同社社長・小澤輝真(45歳)は、37歳で進行性の難病「脊髄小脳変性症」を発症。現在、医師から余命3年を告げられている。

 小澤は病気のため、話し言葉は鮮明でなく、人の手を借りなければ歩くこともままならない。しかし家族や社員のサポートのもと、自社の採用だけでなく、企業や専門家が一丸となって元受刑者を支援する「職親プロジェクト」を立ち上げ、27もの企業が賛同した。

 しかし北洋建設で雇った元受刑者のうち、9割が長続きしないという厳しい現実がある。番組では2人の元受刑者の同社新入社員にスポットを当てる。一人は窃盗罪で三度の服役経験がある大山51歳。しおらしい手紙で北洋建設の入社を志願するも、わずか5日で失踪してしまう。もう一人は窃盗で少年院から出所した20歳の翔太。真面目な働きぶりが周囲にも評価されるが、彼女が妊娠してしまい……。

「面倒」と「苦手」の境界線~51歳大山の場合~

 大山は採用まではしおらしい決意の手紙を北洋建設に何度も宛てていたが、いざ働きだすと番組スタッフの前で「(この仕事は)持たなそうな気がしますね」と聞かされた側が応対に困るほど軽い感じで話す。ほかにも「(前職の)トラック(運転手)のほうが楽ですよ、ひとりだから」と言い、さらに人間関係が面倒なため「あまり(周囲は自分に)関わらないようにしてほしい」と口から出るのは弱音、愚痴、文句不満だ。

 大山の北洋建設への感謝がなく自分のことばかりな姿勢にイラついたものの、私自身「人間関係が面倒」派なので、大山の言っていることが理解できないわけでもなく、そこがまた恐ろしかった。

 大山のような「人間関係が面倒」なタイプの中には、「人見知り」「コミュ障」「ぼっち」を自称する人も多いし、そうした人への認知度、しいては市民権は特にネット界隈においては10年前より上がった。しかし、そう自称するウラには結局甘えがあるように思う。

 この1カ月で状況がさらに悪化したコロナ禍で不安が募る中、私は久しく連絡を取っていなかった人に「大丈夫?」と連絡したり、ちょっとしたやりとりをすることで随分ホッとできた。不安を抱えたときは人間関係にすがるくせに、そうでないときは「人間関係なんて面倒くさい」と斜に構えていたことが恥ずかしかった。

 大山は大の酒好きというのも、自分と重なりすぎて苦しい。人間関係が面倒な人にとって、人と関わらないといけない生活はしんどいことの連続だ。酔うことでようやくリラックスできるのだろう。しかし、保護観察中の大山は酒を飲むことを禁じられている。社員寮のルームメイトが酒を飲むのを見ないようにと、大山はパズル雑誌を解いていて、その我慢のつらさは酒好きとしてわかるので、見ていて切なかった。

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