オンナ万引きGメン日誌

オンナ万引きGメン「1日に7人」捕捉! 最高記録を打ち立てた、忘れえぬ“あの日”

2020/04/11 16:00
澄江(保安員)

少年、老婆、女子高生……次々と現れる万引き犯たち

 捕捉の連発で興奮した気を静めるために、不審者がいないか店内を一回りしてから、店の外に出て軽い休憩を取ることにしました。駐車場の傍らにある販売機でコーヒーを買い、喫煙所のベンチに座って店の出入りを眺めながら一服していると、妙な雰囲気で店の中に入っていく、中学生くらいに見える2人組の男の子が目に留まります。その顔を見れば、盗む気満々といった感じで、見過ごせるレベルにありません。

(こんな時間に若い子が来るなんて珍しいわね。学校は、お休みなのかしら?)

 すぐにタバコを消して後を追えば、いくつかの整髪料とドリンク、それにガムやチョコレートなどをポケットに隠した少年たちは、そのまま店の外に出て行ってしまいます。後方から声をかけると同時に、走り出して逃走を図られましたが、前件の通報を受けて駅前交番から駆け付けた2人の警察官がタイミングよく現れて、すぐに捕まえてくださいました。

「さっき来たばかりなのに早すぎですよ。通報いただいたのは、このことですか?」
「いえ、これは新件で、あと2人事務所にいます」
「ええっ!? もう、そんなことになっているんですか?」
「なぜか、たくさんいて……。ごめんなさい」

 警察官と一緒に事務所に向かうと、先に捕らえた男女が、盗んだ商品と自身の身分証明書を前に、応接セットでうなだれていました。扉の前で見張りをしていた店長が、少年たちの姿を目にした途端、少し興奮気味に目をギラつかせて言います。

「この子たち、やっぱり、やっていましたか。毎日毎日、おかしな動きしていたもんなあ」
「なんだ、お前ら。いつも、やっていたのか? おお?」

 処理しなければならない仕事が一気に増え、機嫌の悪くなってしまったらしい警察官が、少年たちに凄みます。なにも答えないまま不貞腐れている少年たちを睨みつけながら、呆れた様子で無線のマイクを手にし、応援を要請すると、6人ほどの警察官が集まってきました。一人ずつ警察署に送り、4人全員の引き渡しを終えた頃には、すでにお昼を過ぎていたと記憶しています。

(今日は、なんて日なのかしら。この店、まだまだいそうで、ヤバいわね)

 どこか落ち着かず、バックヤードにある従業員用休憩室で簡単に食事を済ませて現場に戻ると、20分ほど店内を歩いたところで、大量のチョコレートをバッグに隠している女子高生を発見。捕まえて店長に引き渡すと、また警察を呼んだら怒られるかもしれないと危惧され、保護者に連絡をして引き取りに来てもらうことになりました。

「こっちは大丈夫ですから、巡回を続けてください」

 まだ満足していない様子の店長に彼女の身柄を預けて、店内の巡回を続けると、15分ほど巡回したところで、お団子やまんじゅうなどをカートに隠して出て行く80代の老婆を見つけて声をかけることになりました。事務所に連れて行き、盗んだチョコレートの山を前に泣き咽ぶ女子高生の隣に、和菓子を盗んだ老婆を座らせ、被害品の確認を済ませたところで店長が言います。

「この子の親、まだ来ないんですよ。このおばあちゃんは、お金ないみたいだけど、どうしよう? このまま帰すわけにもいかないし」

 結局、老婆のバッグにつけられたネームプレートに書かれた介護ヘルパーの方に連絡を取り、その身柄を引き受けてもらうことになりました。その決着を見届けて店内に戻ってまもなく、炭酸飲料のペットボトルを持ち去る男子中学生を見つけてしまい、またしても事務所に戻されます。

「もう座るところないから、駅前交番に連れていっちゃってください」

 泣きじゃくる男の子を連れて駅前交番を尋ねると、出勤時に挨拶を交わした警察官が、嫌気の差した顔を隠すことなく言い放ちました。

「警察は、あんただけのためにあるわけじゃないんだから、ちょっとは考えてやってくれよ。もうすぐ交代なのに、まったく……」

 その数日後、同じ現場に出勤すると、駅前交番の警察官が新人警察官を伴って店内を徘徊していました。なにを買うでもなく、ただ店内を歩き回っています。気にせずに巡回を始めてまもなく、私の姿を見つけた警察官が、そばに寄ってきて言いました。

「今日は、何時までですか?」
「18時までです」 
「それでは我々も、18時まで警戒させていただきますね。犯罪は、未然に防ぐのが一番大事で、それが我々の使命ですから」

 その日は1日中、警察官に後をつけられ、誰一人捕捉することなく業務を終えました。摘発は最大の犯罪抑止と言われていますが、やりすぎると嫌がられることもあるのです。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

澄江(保安員)

澄江(保安員)

万引きGメン(保安員)歴40年以上。スーパーで品出しのパートをしている時に、万引き犯を捕まえたことがきっかけで、この世界に。現在も週5日は現場に立っている。

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最終更新:2020/04/11 16:00
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