【インタビュー前編】

“着物警察”を恐れるなかれ! プロが語る、着物の自由な楽しみ方――「自分で選んで、自分で着れば、それでいい」

2020/04/05 18:00
石徹白未亜(ライター)

「留袖」と「訪問着」の違いって何?

着物警察は戦後生まれだった!? プロが語る、「自由だった」明治の着物と「ルールに縛られる」現代の着物の画像3
華やかなアンティーク振袖

――着方を気にする以前に、シチュエーションによって、どの種類の着物を着ればいいのか、そもそも種類の見分けすらつかないという人も多いと思います。例えば、「振袖」は袖が長いからわかりやすい一方、「留袖」と「訪問着」は見た目も似ており、違いがわかりにくくて……。

池田 留袖は下に柄があって、上が無地です。色が黒なのは黒留袖。色が付いているのが色留袖。訪問着は上にも柄があるものです。 

 一番格が高いのは、振袖と留袖です。例えば、現代で着物を着る機会としてパッと思い浮かぶのは、“結婚式”でしょう。新郎新婦のお母さまは黒留袖を着るのがベストですね。色留袖は新郎新婦のお母さま以外の親族が着るのがよいとされていたりとか、ある程度決まりがありますが、訪問着でも構いません。もっとも、カジュアルなウエディングパーティーでしたら、全員訪問着でもいいんじゃない? と思います。参列者の皆さんで合意があれば、それで構わないのではないでしょうか。

 一方、お茶の世界などは、お師匠さん、宗匠の意向に沿ったほうがスムーズだと私は思います。私はあえてその中には入りません。入ったら抗うようなことを言ってしまいますから。そうすると、周りの人を不快な気持ちにさせてしまうじゃないですか。波風を立てるようなことをあえて言わなくてもいいですよね。

――着物警察のように、わざわざ文句を言う必要はないと。

池田 はい。礼節をわきまえた上で、自分で選んで、自分で着れば、それでいいんです。

「いつまで振袖を着られるのか」問題

――素朴な疑問なのですが、振袖は未婚女性の正装と言われ、「若い人が着るもの」というイメージも強いと思います。実際にいくつまで着られるのでしょうか? 

池田 振袖に限らず、「私は●歳ですけれども、この着物を着られますか?」というご質問はよくいただきますね。着物を選ぶ時、みなさん「何歳」から入られる。そのたびに申し上げているのは、「黒柳徹子さんは80代にして赤い振袖よ」と。その方の生き方と、持っていらっしゃるエネルギーによって、着られるかどうかが決まりますから、最終的にご自分のご判断です。自分でOKだと思ったらOKなんですよ。

――なんだか希望が湧いてきますね!

池田 着物を着るには、人生で大事な3つのものを使います。それは、「時間」「お金」「エネルギー」です。夏なんて暑くてクーラーをガンガンかけないと着られませんし、髪の毛を結うところから始まって着物を着るところまで、私の場合、小一時間ほどかかってしまいます。

 そんな大事な3つを使うのに、人様に何か言われたくないですよね。なので、最終的には「自分で良しとするか」です。でもこれって、着物に限らず洋服選びでも一緒ですよね。今日はこの服を着ようという、その時の気分であったり体調であったり、TPOであったり。着物だって同じように考えればいいと思います。何を選んで何を着るかは自己責任ですから、自分の生き方も含めて肯定できる「センス」を身に着けることが大切だと思いますね。 

* * *

 後編では引き続き池田氏に、着物のコーディネートのコツや、「いきなり着物は」という方にお勧めの浴衣の着こなしについて伺う。 

■池田由紀子 着物店「時代布と時代衣裳 池田」の二代目店主。お店の創業者である母・池田重子氏の跡を継ぎ、着物デザイナー、着物コレクターとして、日本の着物文化を次世代へ伝えるための活動を行っている。月3回、着物コーディネート教室を開催中。

「時代布と時代衣裳 池田」
https://ikeda-kimono.com/

石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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最終更新:2020/04/05 18:00
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