インタビュー

なぜ「不妊」「不妊治療」はタブーなのか? 「セックスしたら妊娠するのは当たり前」という勘違い

2020/02/15 17:00
サイゾーウーマン編集部

不妊問題で、実の母親との間に亀裂も

――実際に妊娠・出産するのは女性であることから、不妊治療は女性が中心になりがちです。パートナーの不妊への偏見・勘違いが、女性側を苦しめるといったケースもあると思います。

松本 それは本当によくありますね。例えば、妊娠・出産の正しい知識を知らず、「妊娠はいつでもできるから」と、子どもをつくることや結婚自体を先延ばしにして、女性側を悩ませるケース。危機感のなさゆえに、病院に行くことを嫌がる話もよく耳にしますね。

――女性と男性とでは、妊娠・出産の知識に違いがありそうですね。

松本 1年間で自然妊娠する確率、年齢とともに卵子が老化すること、さらには妊娠しても出産できるとは限らないことなど、知らない男性は結構いると思いますよ。あと、近年ようやく「男性不妊」が取り上げられつつありますが、「不妊は女性の問題」と勘違いしている男性は多いですね。「自分に原因はない」と言い張り、不妊治療の検査を受けたがらないというケースは珍しくありません。「『〇〇レディースクリニック』なんて名前の病院は、俺が行くところではない!」と、断固として病院に行くことすら拒否する男性の話も聞きましたね。女性側にとって「パートナーが一緒に病院へ行ってくれるだけありがたい」という現状もあるように思います。あと、パートナーだけでなく、自分の母親と確執ができてしまう女性も結構いるんです。

――親子という間柄から、母親が不妊に対してズケズケと口を出すのでしょうか。

松本 母親自身も娘が不妊であることにショックを受け、「私はあなたを健康に産んで、健康に育ててきたはずなのに」などと口にしてしまうんです。また、どこかで自分と娘を重ね合わせてしまうのか、不妊治療に首をつっこんでくることはよくあって、妊娠に効果的と言われる食料品を送り付けてきたり、病院までついてきたり……心配なのはわかりますが、娘の気持ちとしては、できれば口を出してほしくない。そっとしておいてほしい……そう思う方は多いです。

 そもそも母親って、子どもを産んでいるわけですから、不妊当事者ではないわけですよね。だから、その点を踏まえ、いくら親子といえど、不妊に関してはわかり合えないと最初から理解した上でコミュニケーションを取っていかないと、2人の間に修復できないような亀裂が走ってしまう可能性もあります。母親の言っていることを、聞き流せるなら聞き流し、距離を置けるなら置かないといけません。ただ、不妊に関しては、母親の方が娘との距離感がわからなくなっているケースが多いかもしれません。

――母親もまた、不妊や不妊治療について知らないがゆえに、こうした事態が発生してしまうんですね。

松本 母親の介入によって、パートナーの男性が置いてけぼりになることもあるんですよ。妊娠・出産は、やはりカップル2人の問題であって、親の問題ではない。不妊をめぐる母親との関係に悩む人は、「不妊については、つらくなるのでもう話さないでほしい。自分たちで話し合って決めていくので、見守ってほしい」とはっきり伝えた方がいいでしょう。

――パートナー、母親、友人知人らに不妊や不妊治療の話をできないとなると、あとはもう、当事者同士で悩みを共有するしかないですね。

松本 不妊治療のクリニックへ行くと、自分以外にも不妊の人はたくさんいるとわかりますが、ただ、張りつめたような独特な空気があって、ほかの患者さんに話しかけることはできませんよね。不妊治療を受けている同士といっても、相手がどんな状況にあるかわかりませんから。例えば、隣に座っている患者さんは、妊娠したけれど流産して処置しにきた人かもしれないし、今回が最後と決めて体外受精の結果待ちをしている人かもしれない、はたまたこれから治療を始める初診の人かもしれない。できるだけ近しい状況の人と話せればいいのだけど、人それぞれ状況が違うだけに、当事者同士であっても、おいそれと悩みを打ち明けられないと思います。

 それでもやはり、不妊や不妊治療のことを話す相手がおらず、孤立してしまうことは、当事者にとって最も大きな問題。なかなか難しいことですが、誰かが口火を切ることで、もっと不妊や不妊治療がオープンになってほしい。みんながみんな、気を使い合って黙ったままでは、状況は変わらないので、自分の話せる範囲で自己開示していくことも大切だと思います。「Fine」では当事者を「ひとりぼっちにしない」ための支援も行っていますので、ぜひ気軽に利用していただけるといいなと思います。

不妊治療のやめどき / 松本 亜樹子 著
そう「ごくありふれた普通のこと」なんだよね
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