オンナ万引きGメン日誌

サッカー部の万引き少年が、逃走中に事故! 右足があらぬ方向に……それでも「同情できない」Gメンの胸中

2020/01/11 16:00
澄江(保安員)

「あ、あ、足が……」道路上に横たわる少年

 もはや走れないので、できるだけの早足で少年の後を追うと、けたたましいスキール音に続けて大きな衝撃音が聞こえてきました。駐車場から大通りに出ると、前方が凹んだ車が道の真ん中に停まっており、道路上には少年が横たわっています。

「もう、だから言ったじゃない。大丈夫?」
「あ、あ、足が……」

 駆けつけて声をかけると、しきりと足の痛みを訴えるので確認してみれば、右足があらぬ方向に曲がっていました。とても痛そうに苦しんでいますが、傍らに落ちたくるくるドライヤーを見ると、同情する気にはなれません。その場で救急車を呼び、まもなく駆けつけた警察官に事情を話すと、顔面蒼白の状態で泣き咽ぶ少年を見下ろして言いました。

「お前、バカだなあ。しばらくそうして反省してろ」

 警察官に付き添われて救急搬送される少年を見送った私は、別の警察官と共に事務所に向かいます。万引きをして逃走した結果、急に飛び出して事故に遭ったという事実を明らかにするため、店長に被害届を出してもらえるよう、話してほしいというのです。

「面倒なことは、お断りって言ったよね?」

 意地悪げに言う店長をなだめて、私が警察署に出向いて書類を作ることを条件に了解を得た後、店内、駐車場、道路における実況見分を済ませて警察署に向かいます。この日の行き先は、少年課。書類作成中に得られた情報によれば、少年は店の近くにある私立高校に通う高校2年生で、右足の複雑骨折により入院されたそうです。

「さっき、ご両親と連絡がついたんだけど、この子、サッカー部のレギュラー選手なんだってさ。全国大会出場を目指しているから、学校には言わないでくれって。お母さんは、息子のやったことより、学校とかケガのことを気にしていたなあ」

 過去に捕捉した高校生の例を振り返れば、野球やバスケットなどよりもサッカーをやっている子の事例が多く、声かけ時の逃走率も高いように感じます。ここ数年、少子化の影響もあって少年による万引きは減少していますが、その成功例……つまり捕まらなかった例に目を向ければ、その暗数は計り知れません。集団で来店して、堂々と万引きしていくグループも、各地に存在しています。保安員を探して追いかけ回し、盗撮した写真をSNSのグループで共有する高校生グループもありました。逃げるが勝ち。バレなければ、何をしてもいい。捕まえられるものなら、捕まえてみろ。そんなゲーム感覚の万引きに興じて、将来を台無しにするほど、愚かしいことはないのです。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

澄江(保安員)

澄江(保安員)

万引きGメン(保安員)歴40年以上。スーパーで品出しのパートをしている時に、万引き犯を捕まえたことがきっかけで、この世界に。現在も週5日は現場に立っている。

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最終更新:2020/01/11 16:00
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