[官能小説レビュー]

人肌恋しい季節に「ノスタルジー官能」で心温まる――寂れた街を舞台に官能が交わる『桃色商店街』

2019/12/09 21:00
いしいのりえ
『桃色商店街』(イースト・プレス)

 最近の官能小説のトレンドのひとつとして「ノスタルジー官能」がある。寂れた街や商店街などが舞台となり、官能を交えて“結束”をする、という内容のものである。説明をすると、どんなトンチキシチュエーションなのだと思われそうだが、ほっこりとした地域密着型の官能小説ともいえ、実に心が温まる。

 今回ご紹介する『桃色商店街』(イースト・プレス)も、ノスタルジー官能のひとつである。主人公の陽太は、桃色商店街にある大滝書店の息子。最近ではめっきり斜陽となった書店経営だが、陽太は本の宅配サービスを行うことで、何とか経営を盛り返そうと考えていた。常連である未亡人の咲子の家へ本を宅配し、Gカップの胸を見てちょっぴりエッチな気持ちになる、22歳の童貞男だ。

 ターミナル駅から数駅離れたところに位置する桃色商店街は、約20店舗ほどの八百屋や魚屋が並ぶ小さな商店街である。かつては賑わっていたが、ショッピングモールやターミナル駅の大型店舗、ネット通販の躍進などにより、時代の流れとともに寂れていきつつある。

 そんな中、商店街の組合長である陽太の父がひき逃げされるという事件が起きた。商店街にスーパーを出店させる計画を持つ不動産屋からの嫌がらせである。陽太は商店街の起死回生を図るため、商店街に「シェアキッチン」を作る計画を立てる。店主とスタッフに美女を集め、それぞれに趣向を凝らしたコスプレでおもてなしをし、桃色商店街に集客を図ろうと計画するのだ。

 未亡人の咲子、幼なじみの女子高生である香織、豪邸に住む熟女の亜優子という3人の美女からの協力を得て、陽太はシェアキッチンのオープンを試みる。童貞であった陽太がオナニーをしている場面に遭遇した香織が「将来彼氏ができた時に困らないように」と陽太のオナニーの手伝いをしたり、ひょんなことから亜優子からの手ほどきを受けて童貞を喪失したりと、官能小説ならではのトンデモ展開があるのは「ご愛嬌」である。

 寂れた商店街を再び蘇らせるために立ち上がる美女と青年の様子は、読み進めていくと温かい気持ちになれる。香織や亜優子に心が傾きながらも、咲子に対して一途に想いを寄せる陽太の描写もかわいらしい。

 人肌が恋しくなるような寒い季節に、ほっこりとした気持ちにさせられるノスタルジー官能。ぜひお勧めしたい。
(いしいのりえ)

最終更新:2019/12/09 21:00
桃色商店街
美女コスプレで集客ってありそう
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