コラム]K-POPタテ・ヨコ・ナナメ斬り

K-POPとアラビック音楽が面白い15曲! B.I.Gは「アラビア語バージョン」で人気拡大中

2019/12/03 19:00
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――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。10月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

今月の1曲‖비아이지 (B.I.G) – ILLUSION

 GH Entertainment所属5人(6人?)グループ、B.I.Gのアラビック調の新曲です。メンバーの2人がアイドル再起プロジェクト番組『The Unit』への出演経験があり、これから日本で始まるアイドル発掘プロジェクト「G-EGG」にも再度出演予定とのことです。今回のリリースはシングルなのですが、同時にアラビア語バージョンも収録されており、なんとMVも別であります。

 そして驚くことにアラビア語バージョンの再生数が韓国語バージョンの倍近いことになっています。今までは日本語や英語、中国語、スペイン語バージョンの楽曲を用意するアイドルはたくさんいましたが、アラビア語バージョンをリリースしているのは彼らだけではないでしょうか。

 2019年年始に、彼らがラジオ番組「KBS World Radio Arabic」でアラビア語の楽曲をカバーし、アラブ圏での反応が良かったため定期的にアラビア語のカバー曲や自分たちの既存曲のアラビア語バージョンをリリースし、地道に活動し続けた結果、大統領官邸で開催されたサウジアラビア皇太子の訪韓公式昼食会にゲストとして呼ばれた唯一のアイドルグループとなりました。

 16年にUAEのアブダビにて『KCON』が開催されたものの、それ以降中東圏でのK-Popグループの公演は少なく、18年にドバイで『SMTOWN』、今年の7月にはSuper Junior、Stray Kidsがジェッダで、10月にはBTSが首都リヤドで公演を行い、B.I.Gも11月にアブダビにて単独公演・ファンミーティングを行いました。今年の9月末に、サウジアラビアへの観光目的でのビザ発給が解禁されたこともあり、中東圏も段々といろいろな面で開けてきたことを感じます。

 と、いうことで今月はいつもよりもぐっと幅を広げ中近東圏の音楽について解説したいと思いますが、語り始めたら到底足りないので基礎的で一般的な所をかいつまんで説明します。

中近東圏の独特の音階・リズムとは?

 まずは音階についてです。いま私たちが普段耳にしている一般的なポップスなどは、基本的に西洋音楽の枠の中で考えられたもので、全音階というド~シの1オクターブをピアノの鍵盤でいう12音階に分けて、ドから始めると長音階(メジャースケール)、ラから始めると短音階(マイナースケール)、そこからハ長調(C Major)、イ短調(A Minor)というような表し方をしています。

 一方で中東圏には「マカーム」という音階があり、アラブのマカーム、トルコのマカームというように地域によって複数存在していて、その種類は150、組み合わせで無数にあるとも言われています。例えば「マカーム・ヒジャーズカル」はドレ♭ミファソラ♭シの7音階、「マカーム・ナワサル」はドレミ♭ファ♯ソラ♭シの7音階です。マカームはシルクロードを越え、ウイグルでも「ムカーム」と呼ばれ、西はモロッコから東はウイグルまでがイスラーム文化圏の音楽システムを使っています。

 日本でもヨナ抜き音階や琉球音階という音階があるように、ヨナ抜き長音階であればドレミソラの5音、琉球音階はドレミファソシの6音と言われており、どれも実際に聞いてみると感覚でそれっぽいというのがわかると思うので、YouTubeなどで検索して実際に音を聞いてみて下さい。

 一方でリズムは「イーカー(iqa‘またはiqa‘at)」と総称されるさまざまなリズムパターンを使います。こちらもアユーブ、マクスーム、マルフールといったさまざまパターンがあります。またアラビア圏の音楽をアラビア音楽たらしめているのは、以上のマカームやイーカーを奏でる楽器が占める部分も大きく、西洋、アジア圏で使用する楽器の元になったものも多く、音色を聞くだけでアラビア音楽っぽいなというのが感覚でわかってもらえると思います。例えば「ウード」はリュートの元になった木製の撥弦楽器で、「ハンマーダルシマー」や「カーヌーン」、「サントゥール」はピアノの前身と言われています。マカームやイーカーについてはこのサイトが実際に音で聞けてとても参考になるので、英語ですが興味のある方は見てみて下さい。

関連曲:ポピュラー音楽に移行した中近東楽曲

 では、ここでB.I.GがKBS World Arabicで歌ったエジプトのAbuというミュージシャンの「3Daqat」という曲を聞いてみましょう。クラシックでわかりやすいものを選んだつもりですが、この曲はメロディはもちろんのこと、ドラムのダルブッカの音色、リズムがアラビアを感じさせる要素が強いと思います。

 歌謡に焦点をあてると、レコード産業が始まってからはエジプトが中心にアラビア圏を引っ張っていましたが、伝統音楽からポピュラー音楽へ移行するにつれレバノンがリードするようになります。またこれらエジプト、レバノンなどのポップスのことを「シャアビ(Chaabi,Shaabi)」と言い、それ以外にも発祥の場所などによって「ハリージ(Khaleegy)」「シャバービ(Shabbabi)」「アルジール(Al Jeel)」「ライ(Rai)」など細かいジャンルがあります。

 また、現在の中近東の広いエリアをオスマン帝国が支配していた時代、 セルビア人の軍楽隊が休憩時間に民謡を演奏していたものが、トルコの軍楽隊や移動民族“ロマ民族”のジプシー・ ミュージックと融合し「バルカンミュージック」となっていきます。 バルカンミュージックはそれ一括りがジャンルというよりは、変拍子にトランペットなどの管楽器やアコーディオンを使うことが特徴で、現代ではポップスやロック、 ハウスなどさまざまなジャンルに取り入れられています。
■SANDRA AFRIKA ft. COSTI – Devojka tvog druga

 近年は欧米圏のポップスのテイストも取り込み楽曲が欧米的になりつつも、マカームや使われる楽器の特殊さから西洋音楽とは聞いてすぐに違いがわかるような楽曲が多く、スラム教だと女性は肌を隠さなければならないのが一般的ですが、 政教分離の進んだトルコでは欧米圏におけるポップスのMVと見間違えるほど肌の露出が多いものもあります。この4人組女性グループのMVは色使いなどからDestiny’ s Childの「Say My Name」を感じさせる作りです。
■Hepsi – Yalan

 B.I.GがカバーしたSaad Lamjarredというモロッコのポップシンガーの「LM3ALLEM」は15年リリースの楽曲で、使われている音色はクラブミュージックと変わりません。

オスマン帝国治下のアラブ社会
音楽が絡むなら世界史ちゃんと勉強したいな~
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