【連載】傍聴席から眺める“人生ドラマ”

アラサー独女、5つの罪で逮捕――裁判で明らかになった「移住した離島の特殊な環境」とは

2019/12/16 15:00
オカヂマカオリ(ライター)
「東京高等地方簡易裁判所合同庁舎」Wikipediaより

 殺人、暴行、わいせつ、薬物、窃盗……毎日毎日、事件がセンセーショナルに報じられる中、大きな話題になるわけでもなく、犯した罪をひっそりと裁かれていく人たちがいます。彼らは一体、どうして罪を犯してしまったのか。これからの生活で、どうやって罪を償っていくのか。傍聴席に座り、静かに(時に荒々しく)語られる被告の言葉に耳を傾けると、“人生”という名のドラマが見えてきます――。

【#005号法廷】

罪状:道路交通法違反、有印私文書偽造、同行使、私印偽造、同使用
被告人:S子(27歳)

 東京都下の離島で生活する被告人・S子は、2018年10月、居酒屋から原動機付自転車を運転して自宅に向かっていたところ、検問で止められてしまいます。S子は無免許&酒気帯びだったため、警察官が事情聴取。その際、「酒酔い・酒気帯び鑑識カード」と供述調書に、偽名(姉の名前)を署名してしまったことが判明し、後に逮捕となりました。いつになく罪状が多いですが、すべて一度に犯した罪でした。

 海に魅せられ、海のそばで働くため、17年春に東京23区から離島に単身で移り住んだS子。調べてみたら、その島は住民が4ケタしかいませんでした。裁判長に「なぜやってしまったか」と尋ねられたS子が、「離島という特殊な環境に甘えてしまった」と話していたのが印象に残っています。

 離島で原付を運転するようになったのは、18年1月頃からだったそうで、それまでは徒歩か自転車で移動していたとのこと。一応、公共のバスも動いているようですが、平日も休日も1時間に1本、午後7時前には運行が終わってしまうため、島内を自由に行き来するのは難しそうです。

 島の最大幅は約6kmで、S子が酒を飲んだ居酒屋と家の間の距離も、これと同じぐらい離れていたそう。つまりS子はこの日、島を横断してまで居酒屋に行っていたということです。実際S子は、「移動が6kmあって、徒歩や自転車で(移動するの)は厳しかった」と証言しています。普通に歩いても1時間以上かかると思われるので、酔っ払っていたら、きちんと家にたどり着けるか怪しいでしょう。

 S子は全面的に罪を認めており、争う姿勢もない様子。単なる“うっかり”が大ごとになってしまった感じもしますが、「離島という特殊な環境」という言葉が、どうも引っかかりました。

被告が語る、離島の隠れた不便さ

 17年春に移り住み、現在まで免許を持っていないS子。“離島”と聞いて、電車やタクシーが都内並みに走っていると考える人は少ないでしょうし、島に住み始めてからでも、「免許がないと不便」と気付くきっかけは山ほどあったはずです。それなのになぜ、S子は免許を取得しなかったのでしょうか?

 警視庁に直接聞いてみたところ、離島では年3回(2、6、10月)だけ、島内で原付講習をしているそう。つまり、筆記・適性試験を受けるには、内地に出向く必要があるわけです(なんだその“逆・合宿免許”!?)。この情報は、島民以外は知らない“特殊な事情”だと思われます。原付講習は島内で年3回あるとはいえ、1回機会を逃すとまた数カ月待つ……と考えると、億劫になるのもわからなくはないです。

 そもそも、S子がなぜ6kmも離れた居酒屋にいたのかも気になります。確かに、地図で見ると飲食店があるエリアは島の一部ですが、それに加えて逮捕当日の夜、S子は居酒屋近くの友人宅に泊まる予定だったそう。ではなぜ、自宅に向かっていたのかというと、居酒屋で持病の軽い発作が出てしまい、急きょ薬を取りに戻らざるを得なかったといいます。

 だったら、飲食店があって、便利なエリアに家を借りればよいのでは? とも思いましたが、住民がなかなか引っ越さず流動性が低いため、繁華街のそばに住みたくても、借りられる物件が非常に少ないのだそう。S子の言う「離島という特殊な環境」の意味が、おぼろげながらに見えてきます。

 法に抵触する行為はいけませんが、S子は決して悪いことをしようと思っていたのではなく、離島のおおらかな空気に「甘えていた」だけだったのだと感じました。裁判中、裁判長の言葉を聞き逃すまいと、まっすぐに視線を向けていたS子。このあと、懲役1年4月・執行猶予3年という判決が下りました。この期間でしっかりと反省し、きちんと免許を取得してから、島で元の暮らしに戻ってほしいと願います。

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