オンナ万引きGメン日誌

万引きGメンの息子が、スーパーで「万引き」! 「親子で何やってんだよ」店長さんの痛烈な皮肉

2019/11/17 16:00
澄江

少年万引き犯の母親は、同僚だった

 業務終了まで、あと30分。なにひとつ成果が出ない状況に焦りながら巡回していると、お菓子売場の通路に1人佇む小学5年生くらいに見える坊主頭の少年が目に止まりました。なにをしているのか、下を向いて、ごそごそとしている姿が気になったのです。

(この店に、小学生が来るなんて、珍しいわね)

 妙な違和感を覚えて動向を注視していると、商品棚に目を移した少年は、睨むような目で周囲を警戒しながらペッツのリフィル(8個入)を手に取りました。上着のチャックを開けて、それを脇に挟む形で隠した少年は、すぐにチャックを閉めて、出口に向かって歩いていきます。

「ねえ、ぼく。お菓子のお金、払ってもらわないと困るんだけど……」
「……え? ごめんなさい」

 外に出たところで声をかけ、事務所まで連れて行く道中に話を聞けば、少年はこの店の近くに住んでいる小学4年生で、今日は1人で来たと話しています。事務所に着いたところで、懐に入れてしまったモノをテーブルの上に出してもらうと、ズボンのボタンの上からドナルドダックが顔を出しているのが見えました。恐らくこれは、下を向いているときに入れていたのでしょう。ペッツのリフィルのほかに、ドナルドダッグのディスペンサーも盗っていたのです。被害総額は800円程度となりますが、少年が持っていたマジックテープ式の財布の中には、200円足らずしか入っておらず、商品を買い取ることはできません。店長さんは、まだ小学生だからと、警察は呼ばずに保護者に迎えに来てもらうよう私に指示し、少年に断わりを入れて写真を1枚撮ると、バタバタと売場に戻っていきました。

「怒られるから嫌だ。ママには知られたくない」

 駄々をこねて保護者の連絡先を教えようとしない少年に、このままだと警察を呼ぶことになってしまうと、優しくも厳しい口調で通告します。警察という言葉を聞いて、すぐに降参したらしい少年は、財布から自宅の電話番号が書かれたメモを取り出しました。事務所にいた女性マネージャーにメモを渡して連絡してもらうと、すぐに母親と連絡がつき、まもなく迎えに来てくれると言います。

「お母さんが来てくれるっていうから、もうちょっと待っていてね」
「ひっつ、うぐっつ……」

 頬全体を涙で濡らし、必死に嗚咽を堪える少年を宥めながら母親の到着を待っていると、この店を一緒に担当している同僚のTさんが、慌てた様子で事務所に入ってきました。

「あれ、Tさん!? そんなに慌てて、どうしたのよ?」
「あ、ねえさん。実は……」
「いま処理中なのよ。私に話があるなら、ちょっと待って……」
「いえ、違うんです。実は、私、この子を迎えに来たんです」

 そう言って、泣き咽ぶ少年の脇に立った彼女は、その場に立ち尽くして涙を流し始めました。瞬く間に頬を濡らす様が、少年の泣き方と同じで、本当に親子なのだと確信したことを覚えています。

新品本/万引き老人 「貧困」と「孤独」が支配する絶望老後 伊東ゆう/著
澄江さんの「こちらが恥ずかしくなるような違和感」に深くうなずく
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