インタビュー【後編】

ジャニーズの男社会が生む“保守的なジェンダー観”は、どんな「危険」「問題」を孕むのか?

2019/10/20 16:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

「アイドルにジェンダー教育を」の声もあるが……

―― 一方で、Sezy Zoneのマリウス葉が、自身のラジオ番組で、「男性から見た女子力とはなんですか?」という質問に対し、「僕、女子力っていうワード自体が(あまり好きじゃない)」と切り出し、世間的に「女子力」とされる「家事能力の高さ」や「身だしなみへの意識」は、「女性のだけのものではない」と語ったことが、ファンの間で称賛されました。

田島 社会的に「#MeToo運動」が起こるなど、女性に対する差別や蔑視に、女性自身が敏感となり、「このままではいけない」と感じているからこそ、マリウスさんの発言が称賛されたのだと思います。マリウスさんのジェンダー観を育んだのは、生まれ育った環境によるところもあるかもしれません。世界経済フォーラムが公表している「ジェンダーギャップ指数(男女格差指数)」の2018年度版データによると、彼の故郷であるドイツは14位、対して日本は110位なんです。それに、マリウスさんは言動だけでなく、立ち居振る舞いもジェンダーフリーという印象で、彼のようなジャニーズアイドルは、これまであまりいなかったような気がしますね。

――ジャニーズファンの間では、アイドルへのジェンダー教育を望む声も根強いです。

田島 ジャニーズアイドルがジェンダー教育を受けるというより、女性を取り巻く社会状況が変わり、「男性にリードされ、守られる」ことを理想とする女性が減らないことには、どうにもならないと感じてしまいます。むしろ、ジャニーズのアイドル像というのは、社会状況の変化を「映し出すもの」として、注目していきたい気持ちがあります。

 一方、ジャニーズ事務所がどうこうの話ではなく、「一般教養」として性別問わずジェンダーについて学ぶべきとは思いますね。世間一般的に、ジェンダーは女性が考えるべき問題と認識されている状況があります。「女性が権利を得ていくために必要となるもの=ジェンダー教育」といった受け止められ方で、「進歩的な女性が学ぶもの」「女性の先生が女子生徒に対して教えるもの」と思っている人もいまだにいるのではないでしょうか。しかし、男性側にもジェンダー教育は必要です。ただここにも問題はあります。

 以前に比べ、学校でジェンダーを学ぶ機会は増え、20代前半までの学生には「男女平等」の意識をしっかり持っている人も多いと思うのですが、社会に出てもそれを継続して意識し続けられるかというと、今の日本社会には、そこまでの余裕がない気がするのです。仕事が忙しすぎる、また根強い男社会とあって、「男女平等」を考えられなくなるのではないか、と。若い世代が変わるだけでなく、上の世代も変わらなければいけない。社会を変えるというのは至難だと感じています。

――それでも、アイドルがジェンダーについて学ぶことは、決して悪いことではないと思います。

田島 そうですね。ジャニーズファンの年齢層は幅広いものの、アイドル誌の主な読者層を10代だと考えると、ジェンダーアイデンティティ―を確立していく過程にある女子たちに、アイドルがステレオタイプのジェンダー観を植え付けてしまう可能性があるのは、問題でしょう。藤島ジュリー景子氏が新社長となり、さまざまな社内改革をしているという話もあるので、アイドルに向けた、ジェンダーに関する試みに期待したいところはありますね。

田島悠来(たじま・ゆうき)
1985年、佐賀県唐津市生まれ。帝京大学文学部社会学科 助教。同志社大学社会学部卒。2014年、同大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(メディア学)。14年より、同志社大学創造経済研究センター特別研究員(PD)を経て、2018年4月より現職。著書に『「アイドル」のメディア史 『明星』とヤングの70年代』(森話社)がある。

最終更新:2019/10/20 16:00
新品本/「アイドル」のメディア史 『明星』とヤングの70年代 田島悠来/著
マリちゃん、本当にいつもセクシーセンキュー
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