【連載】オンナ万引きGメン日誌

鮮魚チーフは弁当泥棒、それでも店長は見て見ぬ振り……Gメンが地団駄を踏んだ「内引き」事件

2019/09/07 16:00
澄江


 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ、万引き犯摘発依頼のほか、従業員や関係者などによる内引き(従業員による万引きのこと)の摘発依頼が増えています。従業員の立場を悪用した犯行は、常習性が強く、その被害は過大です。雇用している側からすれば、不用意な形で声をかけると大事になりかねないので、その対応に苦慮しているのが本音と言えるでしょう。相当に疑わしくても摘発は困難を極め、確たる証拠が掴めるまでの間は、遠慮なく膨らんでいく被害を甘受するほかないのです。

 警察介入された場合は別ですが、私たちの手によって解決された事案を、クライアントが公表することはありません。自社に対するネガティブな報道により、企業イメージが損なわれることを嫌うのです。内々に和解して被害弁償させてしまえば、被害を訴え出ても得られるものはないので、それも当然のことなのかもしれません。今回は、とある高級スーパーで、数年前に起きた内引き事案の顛末を、お話していきたいと思います。

「姉さん、お疲れさまです。あしたの勤務、SのT店ですよね? 先週入ったときに、やっている感じの社員さんがいたので、姉さんの目でも見てもらいたいんですけど………」

 当該店舗における勤務前日、5年ほど前にインターン研修を担当した後輩のマキちゃんから、珍しく電話がかかってきました。どことなくモデルの森星さんに似ている彼女は、年齢不詳な感じのする美魔女で、その美貌から複数の男性職員や店長さんを虜にしています。いまや新人教育を担当しているため、あまり現場に出ることはありません。今回は、急な欠員が出たということで駆り出されたらしく、久しぶりの現場で不審な動きをする社員に翻弄されたようです。

「あそこの鮮魚チーフ、すごく体が大きな人で……。怖くて見送っちゃいましたけど、お昼のお弁当や飲み物なんかを、1つも会計しないでバックヤードに持ち込んでいたんです」

 悔しそうに話すマキちゃんから、鮮魚チーフの人着や行動を聞き取った私は、それをメモに残して電話を切りました。不審者や常習者の情報共有は、効率よく成果を出すための基本で、非常に大切なことなのです。

 当日の勤務は、午前10時から。出勤の挨拶をするため事務所に出向くと、30代前半と思しき、江頭2:50さんに似た線の細い店長が対応してくれました。

「ここの店長を任されてから、まだ日が浅くて、わからないことばかりなんです。変わったことがあったら、なんでも教えてください」

 聞けば、アルバイトからの叩き上げで店長になられたばかりだそうで、その場に居合わせたキャッシャーの熟年女性はタメ口で店長に接しています。いままでの関係から仕方のないことかもしれませんが、部下に対してヘラヘラと媚びるように接する店長の姿は情けなく、頼りない感じがしてなりません。

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