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『待ち遠しい』レビュー:世代も価値観も違う人たち「普通」の衝突と、なにげなく再生される関係を丁寧に描く

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――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

■『待ち遠しい』(柴崎友香、毎日新聞出版)

【概要】

 2014年『春の庭』で芥川賞を受賞した柴崎友香が、出身地・大阪を舞台にした長編小説『待ち遠しい』(毎日新聞出版)。住み心地のいい離れの一軒家で一人暮らしを続ける39歳の北川春子の視点から、60代、20代と世代の違う3人の女性の“ご近所付き合い”を中心に、「現代の生きにくさ」を抱えながらもひたむきに生きる彼女たちの姿が、丁寧に描かれている。

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 『待ち遠しい』は、世代も性格も生き方も異なる3人の女性の関わりを中心に描いた小説だ。3人の共通点は、近所に住んでいることと、偶然同じカーディガンを持っていたことくらい。「日本中の人がなにか一つは持っているであろう、低価格カジュアル衣料品店」で買ったそのカーディガンですら、異なる色を選んでいる。

 美大を卒業したものの専門とは関連のない職に就き、一軒家の離れを借りて暮らしている春子(39)はライトグレー。春子の大家の長女で、亡くなった大家に代わって母屋の主となった青木ゆかり(63)は黄色。ゆかりの甥と結婚し、一軒家の裏手に住む遠藤沙希(25)は淡いピンク。本作は、そのカーディガンのように無難で穏やかな女たちが織り成すほっこりした小説――のように見せかけて、世代や価値観の違う人々が、それぞれの「普通」を持ち寄った時に起こる摩擦や違和感、かみ合わなさを丹念に切り取った一作だ。

 大学卒業後、就職氷河期の波にのまれ非正規職を転々としていた春子は、3年前から正社員として事務職に就き、休日は美術館を巡ったり、自宅で趣味の刺繍や消しゴムはんこ作りに打ち込む穏やかな日々に概ね満足している。彼女の周りにいる女性は、春子と同じように独身で働いているか、キャリアをいったん横に置き、子育て中。それが春子にとっての「普通」だ。

 そんな春子に“ご近所付き合い”という新しい世界をもたらしたゆかりにとって、自分の時代の「普通」は「結婚して子どもを育てる人生」だった。しかし、今はいろんな生き方があっていいと理解したうえで、春子と良い友人のような関係を作っていく。明るく世話好きで、人と関わることに生きがいを感じるタイプだったが、夫と母を立て続けに亡くし、子どもからも距離を置かれ、一人で静かに孤独と闘っている。春子の生き方を否定するつもりはなかったのに、春子と近所の男性との仲を取り持とうとし、春子と気まずくなってしまう。

 一方で、沙希の「普通」は、自宅から半径5km以内の世界にぴったり収まっている。近所で生まれ育ち、現在も近所の整形外科に勤め、シングルマザーで苦労して自分を育ててくれた母とは親密すぎる関係だ。「女は結婚して子どもを育てて初めて一人前」という「普通」を疑いなく受け入れ、子どもはかわいいが絶対ほしいというわけではない春子には、「女に生まれてきたんやから、普通は子供ほしくないわけない」「人として普通じゃない」と容赦なく攻撃的な言葉をぶつける。

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