[コラム]K-POPタテ・ヨコ・ナナメ斬り

PENTAGON、SHINEEなど“本家”越えの良曲を紹介! K-POPとニュージャックスウィングの意外な関係

2019/09/03 19:00
e_e_li_c_a

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。8月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

8月の1曲‖PENTAGON – HAPPINESS

 Cube Entertainment所属9人組ボーイズグループ、PENTAGONの日本オリジナル曲です。クレジットにあるようにメンバーのキノがメインで作曲をしています。まさかその後にニュージャックスウィングのビートが来るとは思えないギターのイントロから、キノの「幸せになれるか さぁ確かめてみようよ」というフレーズでボーカルが始まります。初めて曲を聞いた時、「幸せになれるか」ぐらいであっこれは良い曲……と感じました。ウソクのラップも韓国語よりハマってる感じがするし、数少ない成功している日本オリジナル曲と言えるでしょう。聴いてわかるようにニュージャックスウィングなのですが……ということで、今回は「ニュージャックスウィング(以下、NJS)」について解説しようと思います。

 NJSについて物凄く簡単に説明すると、今でこそジャンルとしてはひと括りにされがちなHiphopとR&Bですがもともとは源流が違う、全く異なる音楽ジャンルで、1980年代後半にそこをうまくつなげたTeddy Rileyによって作られたものになります。

 R&Bというと何となく歌モノというイメージの方が多いかもしれませんが、40年代頃にリズムアンドブルーズという名前が出てきたのち60年代頃にはソウルとなり、ロックンロールやファンク、ディスコなどさまざまな音楽ジャンルを生み出す元となります。80年代中盤から後半にかけてはアーバンでスローテンポなヒット曲が増え、人気も落ち着いてきます。

ニュージャックスウィング(NJS)の世界的な流れ

 86年にリリースされたこの曲は、一番先述のイメージに近い曲かなと思います。

■Freddie Jackson & Melba Moore – A Little Bit More

 一方で前回の記事でも少し触れましたがHiphopは70年代後半に生まれ、80年代後半になるとHiphop第二世代としてPublic Enemyなどが台頭し始め、「Thug」な(悪党、凶悪犯、チンピラのような)ステレオタイプができてきます。当時、ラジオ局では朝6時〜夜6時までの時間帯はHiphopを流すことを嫌がったそうで、ラップは「若者のムーブメント」という状況だったようです。

■Public Enemy – Bring The Noise

 こちらはHiphopのクラシック曲で、88年にリリースされた、Billboardの「US Top Pop Albumチャート」で42位、「Top Black Albumチャート」で1位を獲得したPublic Enemyのアルバムに収録されているものです。

■Keith Sweat – I Want Her

 そして少し前後しますが87年、NYのハーレムで育った20歳の青年、Teddy Rileyが全面プロデュースしたKeith Sweatのデビューアルバム『Make It Last Forever』がリリースされ、収録曲「I Want Her」がヒット。これを機に世間にNJSが認知され出します。

 80年代後半のR&Bはあまりドラムが強調されないものが多いですが、HiphopのようなトラックにR&Bの歌唱を組み合わせた曲になっていることがわかると思います。その後、彼はGuyというグループを結成し、数々のNJSヒット曲を生み出します。

■Guy – Groove Me

 先月の記事で触れたので、またサンプリングの話を少ししますが、この曲は68年リリースのThe Mohawks「The Champ」の上ネタをサンプリングしています。

■Bobby Brown – My Prerogative

 私と同じ世代ぐらいの方にならBritney Spearsの同曲に馴染みがあるかもしれませんが、その原曲となったこちらもTeddy RileyとBobby Brownの共作で、この曲の収録されたアルバムは世界的にヒットします。

■Bobby Brown – Every Little Step

 この曲は日本でもCMに使われ、彼の髪形や服装などを真似した「ボビ男」と呼ばれる若者が多く出現します。NJSの世界的な大ヒットと、まだバブルで日本の音楽業界にも体力があったこの時代、J-PopにもNJSがたくさん取り入れられます。

■ZOO – Careless Dance

NJSで知名度がアップしたアーティスト/NJSを取り入れた大御所たち

 89年以降は、Teddy Rileyを始めとしたプロデューサーによってさまざまなNJS曲がリリースされ、NJSによって知名度の上がったアーティストもいれば、すでに人気のある大御所アーティストたちも自身の曲にNJSを取り入れるようになります。

■Janet Jackson – Rhythm Nation

 私が通っていた高校のバスケ部では昔からこの曲を使って新入生歓 迎会の時にボールを使ったパフォーマンスをすることが伝統で、女子高だったこともあり毎年ウケが良くてキャーキャー言われたことを思い出します。

■Michael Jackson – Remember The Time

■TLC – What About Your Friends

 NJSのジャンル名については、カルチャー誌のライター・Barry Michael Cooperが、87年にTeddy Rileyの紹介記事を書くにあたり曲の歌詞にあった「New jack(スラングで新参者、青二才の意味)」を引用し、Teddy Rileyが使用しているLinn drumというドラムマシーンでリズムをスウィングできる機能のあるボタンを「Swing」と呼んでいたところから、それらの単語を合わせていたと言われています。

 ここまで曲を聴いてきた方には説明は不要かもしれませんが、BPMは95~110ぐらいのものが多く、16分3連符が主体のスウィングビート(厳密には違いますがシャッフルビートとも言う)で、SP-1200というサンプラーやTR-808といったドラムマシーンの打ち込みのサウンドが特徴です。

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