インタビュー

「一億総監視社会」が招いた“理不尽クレーマー”の実態と心理――クレーム問題の専門家が分析

2019/09/06 10:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

理不尽クレームは「今後も減ることはない」

――このようなクレームに対し、企業側はやや過剰反応をしているようにも感じます。理不尽な要求にも応えなくてはならない理由があるのでしょうか。

池内 「過剰反応である」という前提の上で、やはり、SNSの存在とその影響力の大きさが挙げられます。今は街中で些細なトラブルが起きるだけで、その場にいる人が「報道カメラマン」よろしくその状況を撮影し始め、ネットに投稿し「記者」となる時代です。そして、その投稿を見た人たちが高速で情報を拡散する、まさに「一億総監視社会」。いつ、どこで、誰が、どのように自社の商品やサービスを非難し始めるか、企業側にはまったくわからないのです。大企業なら、ネット上をパトロールしてそういった書き込みを見つけることができますが、中小企業だと人員確保の点からも、なかなかそれは難しい。気が付けば、手が付けられないほどの炎上が起こっている可能性もあります。よって、「最悪の事態」を予防・回避するため、先手を打って対処に踏み切らねばならない、という状況もあるのです。

――「商品が壊れているから交換・返金しろ」といったクレームとは違い、行動に対するクレームは、個人の価値観や倫理観によって「許せない」ポイントが大きく異なるように思います。

池内 商品に対するクレームの中にも、例えば「フルーツがたっぷり入った〇〇」という商品名について、「“たっぷり”と書いてあるのに、これでは“たっぷり”とは言えない」といった理不尽なクレームが来るご時世です。確かに、「たっぷり」という表現の受け取り方は人によってさまざまですし、その人の経験にも左右されます。「主観」と「客観」の間には乖離があるため、人の行動に対しても、明らかに違法な行為は除き、物事の善悪は“個人の良識”で判断されてしまいます。この「良識」や「モラル」といったものが個々人さまざまであるため、何らかの形で明文化されない限り、完全には共有されないでしょう。

 とはいえ、企業側から見て、「どのようなクレームに対処するべきか」という基準については、ある程度明確にできると思いますし、従業員保護の観点からもそうすべきだと考えます。

――人の行動に対するクレームは年々増加傾向にあるといいますが、今後も増え続けるのでしょうか。

池内 必ずしも増え続けると断言はできませんが、人の不満が高まるような状況、たとえば過重労働や格差社会の進行を抑制したり、高齢化社会が抱える問題を解消しない限り、減ることはないと思います。特に、高齢者による理不尽なクレームは、高齢者の数自体が増えてくるので、致し方がない部分があります。また、常に誰かが誰かを監視し、どこでも誰でも「にわか報道カメラマン」や「にわか記者」になれるような、過度にSNSに依存した社会の在り方も、理不尽なクレームの増加に拍車をかけるでしょう。

 そんな社会に必要なことは、まず消費者側の意識改革。人々が自ら「寛容性」を高め、相手の立場になって物事をとらえ、思いやりの心で接することが必要です。また、「客なら何を言っても・やってもいい」といった“特権意識”を捨てること。企業側も、“顧客第一主義”の観念に縛られ過ぎず、「両者は対等であるべき」という信念のもと、時には理不尽なクレーマーを切り捨てるくらいの勇気を持ちましょう。また、周囲はそうした企業の対応を「無責任だ」と責め立てるのではなく、「対応者のストレスを考えると正しい判断をした」と認めるような、「従業員保護」の気運を高めることも大事です。そもそも社会全体として、もう少し精神的にも時間的にも余裕があれば、こうした理不尽なクレームが社会問題になることも減ると思うんですけどね。

■池内裕美(いけうち・ひろみ)
関東大学社会学部教授。関西学院大学大学院商学研究科(博士課程前期課程)、同大学院社会学研究科(博士課程前期・後期課程)修了。博士(社会学)。広告デザイン会社勤務、日本学術振興会特別研究員などを経て、2003年より現職。専門は、社会心理学、産業心理学。現在の主な研究テーマは、過剰な苦情行動やモノのため込み、買物依存といった「逸脱的消費者行動」に関する心理的なメカニズムの解明。特に苦情研究は社会的注目度も高く、メディアからコメントを求められることも多い。著書に『消費者心理学』(共著、勁草書房、2018年)、『暮らしの中の社会心理学』(分担執筆、ナカニシヤ出版、2012年)などがある。

最終更新:2019/09/06 10:00
となりのクレーマ
心と時間とお金の余裕が少しでも増えれば……

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