シーズン2の制作も決定しているが……

『全裸監督』制作と黒木香さんは無関係! “プライバシー侵害”を訴えることは可能か、弁護士に聞いた

2019/08/21 14:35
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman
『全裸監督』(Netflix)公式サイトより

 AV監督・村西とおるの半生を描いたNetflixのドラマ『全裸監督』が話題となっている。主役の村西を演じる山田孝之をはじめ、交際していたAV女優の黒木香を演じる森田望智の演技も高い評価を受け、芸能人のほか、テレビ・映画などメディア関係者の間でも、「地上波では絶対映像化できない」などと大絶賛されている。

 一方で、ドラマの中には、現在は引退している元AV女優の黒木さんが、現役当時の名前(芸名)で重要人物として登場していることから、SNSなどでは、当時を知るAV関係者らから、「黒木さんはドラマ化を了承しているのか」といった疑問の声も上がっている。そんな中、「許可を取っているのか」という質問に対する、「作品制作にあたって、村西さん同様、黒木さんご本人は関与されていません」というNetflixの回答が報じられた。

 そこで、黒木さん本人が、プライバシーの侵害でNetflixを訴えることは可能なのか、弁護士法人ALG&Associatesの山岸純弁護士に話を聞いた。

 山岸氏によると、プライバシー権とは、「自分の情報をコントロールする権利」と考えられているという。

「現代社会では、人は、自分の過去や現在の情報がどこでどのように使われるのかについて強い関心を持っているので、このような情報について自分の知らないところで使用されることを拒む権利として考えられています」

 その上で、黒木さんがプライバシーの侵害を訴えることは可能なのかについて、山岸氏は次のように述べる。

「黒木香さんの実名モデルとしての登場は、本人に『世間に知られたくない』『過去のことなので、今となっては公表して欲しくない』という気持ちがあり、これらの気持ちについて大多数の一般の人が『同じ立場だったら同じように考える』というような場合には、法的保護に値する可能性があります。この場合、プライバシー侵害として、映像の配信停止や損害賠償請求のための訴訟を提起することができます」

 訴訟を起こした場合の損害賠償の金額はいくらになるかについては、「『精神的な損害』がメインとなるので、大きな額にはなりませんが、数百万円程度になる可能性があります」という。

 ドラマ自体は大変好評なため、シーズン2の制作が決定している。これについて、黒木さんが制作や配信の中止を求めることは可能なのだろうか。山岸弁護士によると、「『映像の配信停止』について、裁判所の仮処分手続きにおいてできるかもしれません」とのこと。

 そもそも、このドラマは本橋信宏のノンフィクション『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版)が原作となっているという。では、この原作自体はプライバシー侵害にならないのだろうか。かつて小説のモデルとなった女性からのプライバシー侵害の訴えにより、出版の差し止めが認められた柳美里の『石に泳ぐ魚』(新潮社)のようなケースもある。

「一般人であること、一般的に『他人には知られたくないこと(昔の犯罪歴、身体のこと、過去の恥ずかしい出来事、癖など)』が開示されること、そのことを公開することが社会にとって役に立ったりするもではないこと、実名であること、などの要素があると、『プライバシー侵害』になる可能性が高まります。これに対し、一定程度、その人となりや生活ぶりなどが“おもて”に出ることが想定されている政治家や芸能人であったり、最近の犯罪歴だったり、そのことを公開することで社会に警笛を鳴らす目的などがあったりする場合には、『プライバシー侵害』にはなりにくいと考えられています」

 黒木さんの場合、「黒木香」は芸名とはいえ、黒木香になる前のライフストーリーもドラマ化されている。また、引退後、消息を報じる記事がプライバシー権や肖像権の侵害に当たるとして、出版社等に対して損害賠償を求める民事訴訟を何度か起こし、そのいくつかは勝訴していることも報じられている。

 山岸弁護士は、「エンタメやメディアの影響力(情報があっという間に広がっていく力、多くの人が疑問を持たずに信じ込んでしまう力など)を理解している者は、今一度、その力の強さをしっかりと認識し、使い方を思慮深く考えなければなりません」と警告する。

 今や、SNSやネットを通じて誰もが発信者となれる時代。メデイアのみならず、自らの発信する内容について今一度振り返り、人権について考える必要があるのではないだろうか。

最終更新:2019/08/21 14:36
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