【連載】スピリチュアルウォッチャー・黒猫ドラネコの“教祖様”注意報

心屋仁之助氏“公開カウンセリング”の異常性――「死んじゃえ!」「借金イエーイ!」と叫んで終了?

2019/08/21 21:00
黒猫ドラネコ

心屋仁之助氏への依存は「非常に危険」

――心屋氏が行っているような、不特定多数の人の前でカウンセリングを行う手法は一般的なのでしょうか。

北川清一郎氏(以下、北川氏) カウンセリングは基本的に、相談者のプライバシーや秘密が守られた状態で行われます。なぜならば、相談者が“本当のこと”を言えないからです。「秘密が守られる」という確約があるからこそ、本心を話すことができるのではないでしょうか。家族相談やグループ療法など、少人数で行う場合もありますが、それも参加者全員が秘密を守ることが絶対条件。よって、不特定多数の人がいる中でカウンセリングを行うことは、通常あり得ません。ましてや動画の公開なんて、もってのほかです。

 また、臨床心理士や公認心理師には、倫理と法律による“守秘義務”があります。これを守らないと、相談者が著しく傷つけられることになります。人に知られたくないことを知られることは、非常に苦痛を伴いますし、時には訴訟の対象となることも。人によっては「家族にも秘密にしたい」という場合もありますから、情報の開示には慎重になります。

――心屋氏や参加者が、相談者の悩みを笑っているような場面もありました。

北川氏 相談者と心屋氏・参加者の関係性の質にもよりますが、カウンセリング中に雰囲気を和ませるため、視点の切り替えを提示するために、“ジョーク”を用いることはあります。しかし、多用はしません。多くの場合、相談者は真剣な悩み事をお話しになりますから、こちらも真剣に聞くのは当然です。

 また、相談者の悩みを軽く扱うことによって、本人にとっては真剣な内容にもかかわらず、「大事にされていない」「バカにされている」といった感情を抱く可能性があります。そうした感情を持つと、悩みを話すことを躊躇し、問題解決に至らないリスクが伴います。

――正直なところ、この動画を見て「変だな」と思う人が大半だと思うのですが、心屋氏を頼る人が絶えないのは、なぜだとお考えになりますか。

北川氏 動画を見る限り、相談者は心屋さんが何を言っても鵜呑みにし、彼と話をしただけで救われたような気持ちになっているのかもしれません。広い意味では「催眠」と言っていいかと思います。一般的には、バラエティ番組で睡眠術をかけられた人が操り人形のようになる姿を想像するでしょうが、催眠はもっと広い概念で、専門的には「変性意識状態」と言い、意識の在り方が通常から外れてしまうことを言います。

 これは日常的に起こることで、例えば好きなことに熱中していると、多かれ少なかれ周りが見えなくなったり、付き合いたての時に恋人のすべてが好ましいものに見えてしまったりするのも、「変性意識状態」と言えます。要するに、視野が狭くなっている状態。こうしたことが、参加者の中で起こっているのでしょう。

 初期段階や軽い状態ならば、状況を変え、第三者と会話することで冷静になることはできるでしょう。しかし、長期間にわたって影響を受け続け、いわゆる「マインドコントロール」や「洗脳」に近い状態になると、容易に抜け出すことはできません。ここまで行くと、物理的に対象と接触することを禁止し、回復を目指した積極的な心理療法やカウンセリングなどを行う必要が出てくるかもしれませんね。

――「心理カウンセラー」を名乗る心屋氏は、多くの“認定講師”を抱え、さらに多数の支持者がいます。臨床心理士として、この状況をどう思われますか。

北川氏 通常のカウンセリングでは、相談者の“自立”を目標とし、カウンセラーなしで生きていけることを目指します。カウンセラーが相談者をずっと手元に置くことはありませんし、“認定講師”といった形で弟子をつくることもしません。学校と同じように、カウンセラーからの卒業を目指すものなのです。心屋さんに依存しないと生きていけないというのは、非常に危険な状態のように思います。

 「心理カウンセラー」は“職業名”なので、名乗ろうと思えば誰でも名乗ることができます。極端に言えば、まったく心理学やカウンセリングを学んでいない人でも、「心理カウンセラー」を標榜することができてしまうのです。一方で、「臨床心理士」や「公認心理師」は“資格名”であり、さまざまな訓練を経て、一定の資格試験をパスした人だけが名乗れます。つまり、能力が担保されているということです。「心理カウンセラー」を名乗る人は多いですが、実際にどういった資格を持ち、どういった訓練を受けてきたのか、きちんと判断する必要があると思います。

*****

 このように、心屋氏の言動は専門家も疑問視しています。明るい雰囲気を作って“問題が解決したような気分”になる「カウンセリング・ショー」をご自分の人生に取り入れるべきかどうかは、慎重に考えた方が良いでしょう。

■北川清一郎(きたがわ・せいいちろう)
「心理オフィスK」代表。関西大学、関西大学大学院で臨床心理学やカウンセリングを専攻。大学院を修了後、精神病院、心療内科クリニック、小中学校スクールカウンセラー、教育センター、児童相談所、企業内保健センター、開業カウンセリング機関、就労支援施設などを中心に、フリーランスで臨床活動やカウンセリングを行う。
「心理オフィスK」公式サイト

■黒猫ドラネコ
 1983年5月生まれ。性別、職業は非公表。大分県出身、学生時代から大阪で過ごし結婚を機に上京。穏やかで細かい性格。自分勝手な人が嫌い。趣味はスポーツ観戦、カフェ巡り、漫画・アニメ鑑賞など。甘党でお酒よりジュースを好む。ショートスリーパーにつき夜行性。
Twitter/ブログ「黒猫ドラネコのブログ(仮)

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最終更新:2019/08/23 20:43
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