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スマホ育児ダメ説の源流、『テレビに子守をさせないで』が残した呪い

2019/08/13 20:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

 子どもの不調は何でもかんでも母親のせい! だから母親「だけ」が滅私奉公の精神をもって、育児に臨むべし。そんな思想が色濃く表れている昭和の珍説「母源病」「サイレントベビー」を過去記事でご紹介してきましたが、今回も「珍説」として鑑賞すべく、懐かしのブツをご紹介していきましょう。

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 時代が移りゆくなかで便利な育児アイテムが増え、母親たちが楽をするようになった。けしからん! そんな圧の源流を昭和へさかのぼってみると、「自閉症はテレビが原因」なるトンデモが現れます。最近では「親学」が、「発達障害は現代の親たちの子育てが悪いからだ」という自説を唱えて多方面から叩かれましたが、それと同ジャンルのものでしょう(もちろん、科学的根拠ナシ)。

“新しい”障害とテレビの関係
 そんなトンデモを唱えていたのは、昭和51年(1976年)に発行された『テレビに子守をさせないでーことばのおそい子を考える 』(水曜社)。著者は岩佐京子氏。同書に記載されているプロフィールでは、早稲田大学の文学部心理学科を卒業後、井之頭病院と代々木病院の臨床心理員を経て、日本・精神技術研究員となり、東京都の保健所で三歳児検診の心理判定に従事しているとありました。要はカウンセラー、ということですね。同書はこんな主張が軸になっています。

「障がいの主たる原因は、耳から入る音声の過剰刺激」
「自閉症の特徴である言葉の遅れは、テレビを見せまくる育児に原因がある」

 岩佐氏がこんな仮説を世に広めるようになったきっかけは、当時携わっていた三歳児検診で、自閉症と思われる子どもに出会ったこと。昭和36年に卒業した大学では自閉症について学ぶ機会はなく、それまでの職務でも大人の精神障害しか扱ってこなかったので、子どもの症状を見るのは初めてだったと語られています。

ここでちょっと中断して、注意事項のお知らせです。同書はぶっちゃけ「閲覧注意本」です。理由は障がい者およびその周囲への配慮に欠けた表現が多いから。よって引用部分にそれらが現れる可能性がありますので、ご自身の判断のうえ続きをご覧ください。

 当時、自閉症は「新しい障がい」とされていた。するとこれは、テレビの普及率と関係しているのでは? こうした子ども(自閉症)の親は比較的教養も高く経済的にも恵まれている(=レコードやテレビなどを導入する)という調査もある。傾向が一致するからといってそれが原因とは限らないけど、無視はできない! と展開していきます。

 当時は今ほど、自閉症を含む発達障害全般について研究が進んでいなかったので、さぞかしいろいろなお説が浮かんでは消えていったことでしょう。でも、本当~に毎度似たようなツッコミなので恐縮なんですが「昔はなかった」といっても、三歳児検診が制度化されたのが昭和36年ですから、それ以前は専門家の目につく機会が少なかったからではとか、裕福な親のほうが熱心に医療機関を利用する傾向はないのかとか、そういう素朴すぎる疑問は生まれないんでしょうか?「昔は論」で様式美のごとく茶番が繰り返されるのはどうしてか、マジで誰か解説してくださいぃ……。

すべては、親のせい?
 さて初っ端から脱力していないで、岩佐氏の主張に戻りましょう。

・自閉症になるのは、言葉が発達しないから。それは語りかけややりとりが発生しないテレビ見せっぱなし育児の弊害!

・自分たちが惰性でつけていたテレビのために、大切な赤ちゃんが自閉症になってしまったら、とりかえしのつかない不幸である。

・言葉の習得には個人差があるが、幼少期に獲得できなかった言葉を学童期になってからは取り戻せない。

・言葉の遅れは一生尾を引き、最悪の場合には精神薄弱にもなりかねない。

 あくまで仮説だったのでしょうが、今となってはひとつも当たってなくて、むしろお気の毒。「正常に生まれ、正常に育つはずであったわが子が、精神薄弱として一生の重荷になることがないように、元気な良い子を育てたいと日夜心をくだいているお母さん方へのお手伝いになれば」とこの本を書いたそうですが、お手伝いどころか根拠なく「親のせい」と罪悪感を植え付ける、呪いになってしまってしまっているという壮大なすべりっぷり。

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 岩佐氏の元へ相談に訪れた親に「テレビを徹底的に排除するよう」「テレビを消して、一生懸命話しかけるように」と指導していたということですが、今でもネットを検索するとこの指導を受けていた親たちの記録を見つけることができます。岩佐氏の指導のとおり電子音のない静かな環境ですごし、いろいろな刺激を求めて自然の中へ出かけるため退職せざるをえなかったり山荘に住まいを移したり……とまぁすごい努力です。そりゃブログに残したくもなるわー。

 発達障害について大分いろいろなことがわかってきた現在と比べ、当時は自閉症へのとりくみが手探りだった時代でしょう。ですがその分を横に置いても……ですよ? 何より「子どもが自閉症だったら不幸!」という論調に反吐が出る。Wiki先生にも「日本でも、七田眞や岩佐京子らによって「テレビの見せすぎが自閉症の原因」などの環境原因説が流行し、同様に自閉症児を持つ母親を孤立させる弊害を生んだ」とか書かれちゃってますよー。

 さらに困ったポイントは「古いトンデモ」と、昔の話にできないところです。いまだにこのお説を紹介するクリニックのHPなんかもありますので。幼児教育のパイオニア的存在である七田真氏の著書『あかちゃんを賢く育てる秘訣』(日本経済通信社)の第9版(平成元年)でも、「テレビは頭の配線をすっかり狂わせて、言葉のない、自閉症児を生み出してしまいます」といい、岩佐氏の同書を推薦している始末。古い言説でも、こちらは現在も販売されている本ですし、「あの有名な先生が言うのだから」と、信じてしまう親たちがいそうで怖い怖い。

スマホ育児否定へと継承
 ちなみに岩佐氏は後年自説を一部撤回していて、1989年(平成元年)に出した本『自閉症の謎に挑む―活性酸素によるニューロンの破壊』では自閉症は生まれつきではなく、テレビなどの機械音で健康を害し活性酸素が発生すると説明。そこへ栄養不良なども相まって脳神経細胞(ニューロン)が破壊される! なる新たなトンデモへ舵を切っています。より疑似科学っぽくなっただけで、テレビを悪者にしたいお気持ちにゆるぎのない、ぶれないお方だな。

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 現代では、こういった「テレビの見せすぎ」に継ぎ、「スマホに育児をさせないで」なる、日本小児科医会の発信が生まれています。

 視力の低下や「育ちをゆがめる」といった問題を引き合いに出しながら、親はメディア機器に接する時間があったら、子どもに目を向けましょうね! というのが主な主張。でもそれって「メディア機器」の問題なんでしょうか? スマホやテレビといったメディア機器がなくても、子どもの相手をしない人は、しない。

 公園へ行くと、ベンチにどっかり座り込み本や新聞に長時間集中し、遊んでほしそうな子どもをまるっと無視している人もよく見かけます。家族と出かけていても隙あらばタバコだトイレだコンビニだと子どもから離れてひとりになりたがる父親……は、うちの話か。子どものころテレビを禁止されていたので、布団の中でこっそり本やマンガを読んで近視になったという知人も少なくありません。

 こんな点からもやっぱり、育児現場に取り入れられるメディア機器を叩く根底には「母は楽してはらなぬ」という呪いが根付いているんですねえ……という、いつもながらの結論になってしまうのでした。

ついでにこんな珍説も…
 ついでに氏は独自の視点でアンチミルク発信もしていたようで、1998年に『牛乳は完全栄養食品ではない』という本を出版しています。

 こちらは未読ですが、紀伊國屋書店のサイトに掲載されていた目次を見るだけで「あー」とお察し案件。目次に記載されている一部を引用させていただきましょう。

・「大量の牛乳を飲めば、すべての子どもがおかしくなるわけではないが」
・「妊娠中に毎日1000ccの牛乳を飲んで脳性まひと知恵遅れに」
・「母乳を出すために、牛乳をたくさん飲んだのに言葉遅れと落着のない子どもに」
・「3歳まで牛乳のみで育ち、入園しても泣くばかり」
・「牛乳1000cc飲んで、意欲なし」

 これって米を食べても水を飲んでも同じこと、言えません? 私の場合ならこう言われちゃうのかな「毎日欠かさず米を食べて育ち、難治性の皮膚病に!」。食べ物、関係ねえ~。もちろんテレビもな。

Information
山田ノジル出演イベント
怪奇! 本当に怖いトンデモの世界

子宮の声に従いやりたい放題な子宮系女子。SNSなどの情報に惑わされ自分の子供に適切な医療を施さない親。自然こそ正義! 人工物は悪! 女性性を開花させれば人生は開ける! 妊活、女性の健康周りのトンデモテクニックなどなど……。

本当に怖い話はあなたの身近に迫っている!
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ゲスト:
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最終更新:2019/08/13 20:00
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