『新宿二丁目』著者・伏見憲明氏インタビュー

「新宿二丁目」伏見憲明氏が語る実態――世間的な「勝ち札」が通用しない“多様性の街”

2019/07/27 19:00
末吉陽子

これから本当の意味で多様な街になる

――それを面白がれる人が集う場所って、肩の力が抜けるというか、無理したところで見抜かれるからこそ心地よいのかもしれないですね。特異であり、希有な街として、いまもなお存在感を放つ二丁目を、伏見さんも著書で「生きることを共有する場であった」と回顧されていますが、それはつまり、どのような場所でしょうか?

伏見 いまでこそ、LGBTフレンドリーな人も増えましたけど、僕が若かりし頃なんてセクシュアルマイノリティであることを、家庭や職場で大っぴらにできない時代でした。正直な自分をさらけ出せなかった時代、「本当の自分」で生きることができたのは二丁目だったんです。でも、僕自身、最初から好きだったわけではないですね。

――それは、なぜでしょう?

伏見 僕が初めて足を踏み入れたときは、あまりにも性的な街で、ゲイにとっては、それはそれで闘いがあるんです。ゲイバーの扉を開くと、あからさまに値踏みされましたからね。イケメンだったらいいけど、僕みたいなブスはあっさり終了。闘う前に試合が終わってるもんだから、「揚がっちゃってるわよね~」なんて言われて「天ぷらホモ」とか、4年に1回しかチャンスがないからって「オリンピックホモ」とか、ヒドいあだ名付けられちゃって(笑)。本当にモテなかったので、二丁目に足を運んでも、つらかったし面白くなかったんです。

――いまはどうですか?

伏見 大人になると、ブスにはブスなりの楽しみ方があることがわかってきます(笑)。また、不思議な出会いやワクワクすることが自然と生まれるところに、面白みを感じられるようになりました。

――たとえば、どのようなことでしょう?

伏見 最近デビューしたドラァグクイーンのユニット「八方不美人」も、うちの店でたまたま飲んでいた作詞家の及川眠子さんの、「楽曲を提供するわよ~」なんてひと言がきっかけで生まれたり、うちの店長のこうきが絵本を出したときも、やっぱりうちで飲んでいた中村うさぎさんが「文章を書くわよ~」なんて言ってくれたことで刊行が決まったり。あと、うちは「生産性を上げなきゃ」ってことで、店で男女の出会いをアシストすることもあるんですよ(笑)。僕自身おせっかいな仲人ババアの趣味があって、それで自分の快楽を満たしているだけなんですけどね。

――集う人の価値観が変わると、ひいては街も変わりますよね。伏見さんは、これからの二丁目を、どのように展望されていますか?

伏見 確実に、「ゲイの街」ではなくなっていくでしょうね。いまの流れに従って、男性同性愛者の出会いの場としての機能は縮小し、女性や外国の方が増えて、本当の意味で多様な街になると思います。

 あと、現在二丁目全体がビルの老朽化による建て替え期に差し掛かっているので、家賃の上昇も予想されます。うちみたいな小さなスナックだと、いつまで商売を続けていけるのかなとは思いますね。料金を高く設定しないと商売が成り立たなくなると、二丁目の文化も変わっていくと思います。かつての赤線・青線地帯からゲイタウンに変貌を遂げたのも、数十年とたたないうちですから、仕方ないとうえば仕方ないですよね。街は、そうやってどんどん変わっていくものなのかなって思っています。
(末吉陽子)

伏見憲明(ふしみ・のりあき)
作家。1991年、『プライベート・ゲイ・ライフ』(学陽書房)でデビュー。『魔女の息子』(河出書房新社、第40回文藝賞受賞作)、『欲望問題』(ポット出版)など著書多数。最新刊は『新宿二丁目』(新潮新書)。2013年、新宿二丁目にゲイバー“A Day In The Life “を開店。
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最終更新:2019/07/27 19:00
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