早乙女智子医師×福田和子氏対談(前編)

日本の避妊は「途上国」以下――ガーナ人女性が激怒した現実【早乙女智子×福田和子対談】

2019/07/15 17:00
千葉こころ
(左)福田和子さん(右)早乙女智子医師

 「あなたはどうして避妊にコンドームを使っているんですか?」――買いやすいから、便利だから? では、コンドームと同じくらい買いやすく、便利で、避妊成功率がより高いものがあったら、あなたは使ってみたいですか? 

 一般社団法人日本家族計画協会の調査(2016年)によると、日本で用いられる避妊方法の82%が男性用コンドームによるもの。しかし女性にとっては「つけてもらう」「つけてくれた」など、“男性主体”の避妊法というイメージがどうしても拭えません。日本国内には避妊方法が複数あるものの、低用量ピルの服用率は4.2%、女性の体内に入れる子宮内避妊システムIUDやIUSなどを使っている人は1%と普及率が低いのが実情。しかし、世界に目を向けると、多くの選択肢の中から女性が自分に合った避妊方法を選び、“バースコントロール”を行うことが当たり前の時代となっている様子です。そこで、公益社団法人ルイ・パストゥール医学研究センター研究員で産婦人科医の早乙女智子医師と、スウェーデンへの長期留学で日本に世界と同レベルの避妊法や性教育がない現状を知り、日本の性を考える「#なんでないの」プロジェクトを起ち上げた、同プロジェクト代表の福田和子さんに、日本の避妊事情が抱える問題点と女性主体の避妊について対談していただきました。

ピルの普及を阻む「スティグマ」とは

――日本の避妊事情は、世界的に見てどのような感じなのでしょうか?

早乙女智子医師(以下、早乙女) 統計上で、日本の避妊実行率は約44%といわれています。方法としては、コンドームが40%(避妊実行率の中では80%程度)で、低用量経口避妊薬ピル(以下、ピル)が4%。そして、子宮内避妊システム・IUSは2%と一握りなので、日本全体でコンドームによる避妊が主流といえるでしょう。ピルが認可されたのは1999年なので、国連加盟国の中でも本当に最後の方だったのですが、そこから20年たっても一向に普及していないということですね。

福田和子さん(以下、福田) やっと4%って感じですよね。普及しない理由として、経済的な問題や副作用などの漠然とした不安もあるかもしれませんが、女性主体の避妊に対する「スティグマ」も強いと思います。

――日本では聞きなれない言葉ですが、「スティグマ」とはなんでしょうか。

福田 汚名や負の烙印という意味のほかに、社会的にそのグループに属することで受けるマイナスのイメージです。ピルで言うなら、ピルを飲んでいることで「遊んでいる」といったイメージを持たれてしまうことがスティグマです。

早乙女 月経困難症でピルを服用していても、「彼氏がいないのに飲んでいるなんて、遊び人だな」とか言われるんだもんね。本当に面倒くさい。それに、もし避妊のために服用しているなら「私はしたい時にするし、産みたい時に産む。今妊娠は困るからピルが必要なんです。それが何か?」と言い返せばいいだけなのに、それもできないのが今の日本。

福田 スティグマは同性内でも根強いし、言い返すのはまだ無理ですよね。日本ではスティグマという言葉自体が普及していないから、概念としても薄いのかも。

避妊は「する」「しない」ではなく、継続的に行うもの

――なぜ日本では「ピル=性交渉」というイメージが先行してしまうのでしょうか?

福田 大学入学後、日本の性産業の歴史について学んでいた中で感じたことがあって。性産業従事者の女性は「男性を楽しませる」ためにセックスをしますが、家庭内の女性は「子どもを産むため」のセックスであり、女性が「楽しむ」という概念がなかったと思うんです。そういう考え方が、当時から現在まで続いたことにより、女性がセックスを楽しむことや、回数が多いことに対してのスティグマが生じたのではないでしょうか。その結果、「ピルを飲んでまでセックスをする物好き」とか、反対に「私は遊んでいないからピルは必要ない」っていう感覚になっちゃうのかなって思いますね。

早乙女 「私は遊んでいないからピルは必要ない」と言う人もいますが、1回のセックスで妊娠することだって普通に起こることなので。そして、避妊は性交1回ごとに「する、しない」ということではなく、自分の人生の中で「“今”は妊娠している場合じゃない」とか、「この男性の子どもを産んでもいいか」と考えた上で行うこと。避妊をしなくてもいいのは、妊娠をしたい時だけで、避妊はライフプランを形成する上で“継続的”に行うという概念に気付いてほしいです。

福田 セックスの回数が多いこと自体は問題じゃないし、ピルを飲むだけでヤリマンとかって定義されるのもおかしいですよね。

早乙女 ヤリマンやビッチ、遊んでいる女とか、陳腐なワードが固定化されているけれど、どれも男性が女性を貶めて、優位に立った気分でいるだけ。そんなくだらない自己満足のために“女”が使われているんだけど、男と女を入れ替えて成り立たないものはすべてジェンダーバイアスだから、丸めてポイしていい。常に「男女を入れ替えて成り立つか」で考えていくと、バイアスは簡単に見えてきますよ。そして、自分の体や人生に向けられていることなんだから、「ピル飲んでいるのは遊び人」とか言ってくるヤツには、「遊ぶためで何が悪いんですか? アンタとはしないけどね!」って言ってやれ(笑)。

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海外と比較して、日本がこんなにも遅れているなんて……
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