『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』五輪という夢と呪い「運命を背負い続けて~柔道家族 朝飛家の6年~」

2019/07/09 17:45
石徹白未亜
『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

 NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。7月7日放送のテーマは「運命を背負い続けて~柔道家族 朝飛家の6年~」。1964年の東京五輪から3代続く柔道一族の悲願「五輪出場」を目指す日々。

あらすじ:3代続く柔道一族の「五輪出場」への悲願

 横浜で50年続く歴史ある柔道教室・朝飛道場。道場を開いた朝飛速夫は1964年の東京五輪でコーチを務めるも、無差別級の決勝で日本人選手の敗北を目の当たりにし、息子・大を五輪柔道選手に育て上げようと決意。しかし、早くに他界してしまう。遺志を引き継いだ大は、全日本選手権に出場するも五輪への夢はかなわず、夢は大の子どもの三人姉弟に託される。

「楽しいとはちょっと違う」の切実さ

 昔は半べそをかいていたがたくましく成長した長姉・七海と、三人姉弟の真ん中らしくマイペースな次姉・真実、パワフルな姉二人の影でおとなしい末っ子の太陽。道場の卒業式ではきょうだいでコントをするなど、和やかな家族だ。

以前、私がスキーに行ったとき、小学生くらいの息子を連れた父親がいた。子どもをプロのスキーヤーにしたいようで、父親は息子をかなりヒステリックに叱りつけ、息子はずっとうつむいていた。「毒親だ……」と雪山で気がめいってしまった。子どもは親の代理戦争の駒ではない。この一件があって以来「スポーツ父子鷹もの」を見ると身構えるようになっていたが、今回の朝飛家は穏やかな雰囲気で安心した。

 「毒親家庭」では、モンスターとなった母親と、家庭の問題に無関心な父親がペアになっているケースが多いように思うが、スポーツ系の「毒親家庭」は立場が逆転し、父親がモンスターに、母親は父親を止められない無力な存在となるように思う。しかし、朝飛家はそうではない。親子間で軽口をたたき合う姿は「柔道一家」の言葉で想起されるイメージより、ずっとカジュアルだ。

 子どもたちへの指導も、ナレーションでは「厳しく指導する」みたいに言われていたが、理屈のある叱り方であり、理不尽さは感じられない。また、印象的だったのは、大が「親の仇になっちゃいけないんですけどね、子どもたちの人生がね」と話していたことだ。

 しかし親子仲が悪くないといっても、「五輪を目指す」以上、子どもたち3人は普通の子どもが送る青春とは全く異質のストイックな10代、20代を過ごすことになる。

 七海は五輪代表の強化選手に選ばれるも、各階級で五輪に出られるのは1名のみ。柔道は日本の“お家芸”ゆえ強敵がひしめく中、ただ勝つだけではなく、勝ち続けなければ代表の座を射止めることはできない。そして、七海の五輪出場は絶望的になってしまう。大きな目標を失い、膝のケガを負い、大に止められても振り切って練習に参加していた姿が気の毒だった。五輪を目指すのは楽しいか、というスタッフの質問に、「いろんな気持ちになることがあるので、一言で楽しいというのはちょっと違うかなって」と七海は笑って話す。「楽しいです!」と偽った気持ちを答えることなく、率直に心境を表した七海の姿に、やせ我慢、根性、忍耐が美徳とされていた昔のスポーツ界からの進化を感じた。

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