インタビュー

「『東京ガールズコレクション』に政治家が出るかも」――文化服装学院生が抱く、“政治と表現”への不安

2019/07/18 14:30
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman
文化服装学院Wikipediaより

 ファッション誌「ViVi」(講談社)が自民党の“PR記事”をウェブで公開し、大きな議論を呼んだことが記憶に新しい。ネットでは、「ファッション誌が特定政党の宣伝をするのはおかしい」などと大炎上していたが、「ViVi」世代であり、ファッションを学んでいる学生たちは、これをどう捉えていたのだろうか。リアルな声を聞くべく、文化服装学院・グローバルビジネスデザイン科4年の学生さん5名と、文化服装学院の非常勤講師である、国際政治学者・五野井郁夫氏を交えて話を聞いた。その中で見えてきた、「『ViVi』×自民党の問題点」そして「“PR広告”が雑誌にもたらした弊害」とは。

ファッションが政治の“宣伝”をすることで待ち受ける未来

――今回の「ViVi」の広告に何を思ったか、率直な意見を聞かせてください。

学生Aさん ファッション誌が政治広告を出すことに“違和感”がありました。今までこういったものを、見たことがなかったので。

学生Bさん グロテスク、ですね。まずファッションって、「表現をする」っていう側面があるので、仕事として政治と関わっちゃうと、音楽や芸術にも影響が出るんじゃないかと思います。

五野井氏 表現を自粛しちゃう、みたいなことかな。「この広告に出ちゃったから、もう自民党の悪口は言えない」とか。別に今のところ、自民党がファッションを脅かすようなことはしてないんだけど、「ViVi」はこれから「言えないメディア」になる可能性はありますよね。

学生Bさん それってエンターテインメントからすると、脅威ですよね。批判的な表現ができなくなるって、すごく怖いことだと思う。ここを取っ掛かりに、例えば『東京ガールズコレクション』とかに政治家が出てきそうだと思って……。そうなったら、もうファッションの危機ですよ。でも、あり得ない話じゃないからグロテスクだな、と。

学生Aさん ファッション誌が政治について何かを言うことは悪いことじゃないけど、“自民党”に限ってしまってるから、違和感があります。“自発性”の問題じゃないですかね。誰かから頼まれた“PR”だから、変な感じがするんです。

学生Cさん 自発的に政治を取り上げるなら、内容は批判的でも肯定的でも問題ないと思います。ダサいかカッコいいかは別として。特定政党の要望に応じて記事を出したことが、モヤモヤするポイントなんだと思います。

――ファッションと政治が関わることについては、肯定的ですか。

学生Bさん 政治的なメッセージを伝えるのは、ファッションの役割のひとつだと思います。ファッションは、政治的な主張を抽象的に表現できる力があるじゃないですか。それって、政治にとってはある意味“脅威”だと思うんですよね。

五野井氏 ディオールが2017年の春夏コレクションで発表した「We Should All Be Feminists(私たちはみなフェミニストであるべき)」みたいなメッセージとか。同年には、ミッソーニのショーでプッシーハット(編注:全米各地で行われた反トランプデモ「ウィメンズ・マーチ」で女性たちが身につけていた帽子)をかぶったモデルも登場していました。これらは極めて抽象化されたメッセージとして、政治へ意見を伝えられている。「みんなフェミニストであるべき」というだけで、だから何をしろということではない。そういうメッセージを伝える機能が、ファッションにはありますよね。そう考えると、今回の「ViVi」広告もファッション業界にとっては“脅威”だったのだろうか。

学生Aさん 私たちが唯一表現できる世界に踏み込まれたという点では、危機感を覚えましたね。これが進んでいくと、ランウェイはつまらなくなると思う。言われたものだけを作るみたいな。すでに『東京コレクション』がそんな感じになってるけど。

五野井氏 たしかに、リトゥンアフターワーズが18年春夏コレクションで「戦争反対」的なことを表現してたじゃないですか。棺桶引っ張ったりとか、焼かれた服が使われていたりとか。我々は「すごいな」と思うんだけど、基本的に日本のメディアは黙殺していく。たぶんこういった政治的メッセージを歓迎してないよね、『東京コレクション』自体が。

 1980年代以降のモードの服は、単なる服である以上に「メッセージを伝えたい」とか「コンセプトを伝えたい」といった目的があって、それが当たり前。けれども、今の状態のままだとファッションは「とりあえず服を作っておけ」「文化服装学院は洋裁学校のままでいろ」という旧態依然としたことにもなりかねない。ファッションとそれを扱う雑誌自体の意思ではなく、ファッション雑誌が政権与党の“宣伝”をするような状況が続くと「ファッションで主張するなら、我々に従え」と言われる未来が来るかもしれない。

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