女のための有名人深読み週報

坂口杏里の迷走はいつ始まったのか? 大女優の娘に生まれ、「コネで芸能界入り」のリスク

2019/07/04 21:00
仁科友里

杏里にとってストリップの仕事は踏ん張り時だった

 IMALUは親も健在で、本人も事務所を立ち上げるなど、裏方の仕事に活路を見いだしているからよい。こうなると、心配なのが、坂口杏里のように後ろ盾(親)もおらず、けれど、芸能界にいた日々を忘れられないというタイプではないだろうか。

 大女優・坂口良子さんを母に持つ杏里は17歳で芸能界入りし、おバカキャラとしてバラエティで活躍した。しかし、良子さんを病気で亡くしたことでホストクラブにはまり、遺産を使い果たすだけでなく、借金まで作ってしまう。返済のために、AV女優に転身するが、ホストへの恐喝で警察のお世話にもなった。その後、風俗店での勤務を公表する一方、芸能界に復帰したいという希望を明らかにしているものの、具体的な成果は出ていないようだ。『ザ・ノンフィクション』では、そんな杏里の姿を追う。

 2018年6月、浅草ロック座でストリップデビューすると発表された杏里だが、本番直前のリハーサルでもフリは頭に入っておらず、太ってしまったために衣装が着られない。ステージでの立ち位置すらわからない。ロック座名物・早着替えもこなせず、「私、プロじゃないもん」と文句を言う。とうとう、ロック座は「諸事情により、出演を見送ることになりました」と杏里の降板を発表する。「降板なんて私は言っていない」と杏里は言うが、番組での様子から考えると、「踊れないので、クビになった」と推察することもできるだろう。

 いまだ借金が1000万円以上残る杏里は、「夜の仕事」を続けざるを得ない。番組のディレクターが「フツウのバーでバイトすれば?」と質問すると、「お金にならない」と即答していた。確かに“フツウ”のバイトでは、1000万円以上の借金を完済するには気の遠くなるような時間がかかるだろう。

 さて、それでは「お金になる仕事」とは何かを、杏里は考えたことがあるだろうか。「お金になる仕事」は、フツウの人ができないこと、もしくはフツウの人がやりたくないことを生業にすることではないだろうか。前者の場合、高いギャラを受け取る分、結果に責任を負わなくていけないし、後者であればお金のためと割り切って我慢する強さが必要になる。

 杏里にとって、ロック座の仕事はやりたい仕事ではなかったのかもしれない。しかし、彼女はほかのダンサーを従えて踊る“主役”である以上、結果を出せば自分の業績になるし、お金にもなる。ストリップは興行だから、評判が良ければまた声がかかるだろう。うまくいけば借金返済も夢でない。杏里にとって、ロック座公演は汚名をすすぐためにも、借金返済の意味でも踏ん張り時だったのではないだろうか。

 何がチャンスで、いつが頑張り時なのか。杏里はそれがわかっていないように見える。一般人であれば、こういう人は芸能界に入れないが、杏里の場合、コネがあるので芸能界に入れてしまい、キラキラした経験までしてしまった。ゆえに、あきらめることができないというジレンマに陥っているのではないか。

 地上波のテレビが彼女に思い出したように声をかけるのは、ゆっくりと転落していく若い女性への興味からだろうが、芸能界復帰を目指す杏里は、これをチャンスと捉えてしまっているようにも思える。取材されることは、芸能界の復帰を確約するものではないものの、「もしかしたら芸能界に復帰できるのかもしれない」とポジティブ変換しているように感じられるのだ。

 杏里の迷走は、元をただせば、芸能界向きとは言えないぼんやりとした少女が、大女優の娘に生まれ、コネで芸能界に入ってしまったことに始まっているのではないだろうか。コネで仕事を得るとは、実はものすごくリスクの高いことに思えて仕方がない。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。

最終更新:2019/07/04 21:00
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