インタビュー対談【前編】

ギャルもサブカルも“田舎”へ吸収される――山内マリコ×笹井都和古対談「地方出身女の生き方」

2019/07/12 18:00
番田アミ

田舎に残る女性は「“自己肯定感”が強い」?

――地元で幸せに暮らしている人は、そうした問題を抱えず、満たされた生活をしているんでしょうか。

山内 それは本人たちに聞いてみないとわからないけど、性質に合ってる場所で生きていることはたしかですよね。能町みね子さんが『ドリカム層とモテない系』(ブックマン社)という著作で、まさにそういう地元で幸せをつかむタイプの女子を見事に分析しているのですが、地元が居心地いい子は、必要以上の刺激を求めておらず、前例がないことはやりたくない、冒険を好まない性質だと書いてあって。逆に私たちモテない系は無駄に刺激を求めて冒険に出がちなので、保守的な感覚が理解しづらいというのはありますね。とにかく、私および都会で人生を謳歌しているタイプの女性は、実はそこに入れなかったアウトローなわけで……だから、こっちの問題です(笑)。

――周りの変化に気が付くきっかけとして“同窓会”があると思うのですが、出席したことはありますか?

山内 作家デビュー後に中学の同窓会に出席したけど、同級生は男子も女子も本当に変わってなかったですね。「そのままだ!」ってちょっと面食らったほど。一方私は、中学の自分と今では、完全に別人なんです。あの頃、自分がどういう人間だったかわからないレベルで。

 ただ、変わった方が偉いのではなく、私は中学時代、自分のことをあまり好きじゃなかったから、“変わりたい”という気持ちがあって外に出たんです。でも彼らはきっと当時からそんなこと考えてなくて、変わる必要もなかったし、変わることを望んでもいなかったんだと思います。振り返れば中学時代、私が自分の内面にぐちゃぐちゃ悩んでいる時、彼女たちにはそういう素振りがなかったんですよね。あれって今風に言えば、“自己肯定感”が高かったってことなのかも。私は20代ずっとモラトリアム期間みたいなものだったけど、彼女たちはそんなのすっ飛ばして、迷いなく大人になって結婚してるのかな〜と。

笹井 地元にいた時、「大人になっても独身の女性」が周りにいなかったんですよ。そういう存在って“ファンタジー”で、私も将来は結婚して子どもを産むものだ、と思っていました。でも今、自分がその“架空の人物”になりつつあります(笑)。

――「結婚して子どもを産んで家を持つ」という道から逸れて、迷ってしまうことはないのでしょうか。

山内 迷うけど、なった方が道だから、自分の道を生きるしかないかな。私みたいにもともとメインストリームから外れてる人間が、無理して王道を行こうとすると、絶対ケガするし(笑)。笹井さんは、この先の人生をイメージすると、どうありたい?

笹井 結婚願望もないし、子どもも欲しいと思わないですね。私たち世代に共通しているかもしれないけど、「今が楽しければいい」と刹那的に生きている気がします。

山内 周りに結婚・出産した人はいる?

笹井 結婚式に呼ばれないレベルの、SNSで知るレベルの友達はいます。赤ちゃんの写真を見てかわいいと思うけど、自分が欲しいとは思わないですね。

山内 この先、年齢によって状況や気分は変わっていくでしょうけど、それも全部、書いてほしいですね。
(番田アミ)

(後編に続く)

■山内マリコ(やまうち・まりこ)
1980年富山県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2008年「 女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、 2012年刊行のデビュー作『ここは退屈迎えに来て』は、 2018年に映画化された。 主な著書に『アズミ・ハルコは行方不明』『 さみしくなったら名前を呼んで』『パリ行ったことないの』『 かわいい結婚』 『東京23話』 『買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて』『あのこは貴族』 『皿洗いするの、どっち? 目指せ!家庭内男女平等』 『メガネと放蕩娘』 『選んだ孤独はよい孤独』 など。 最新刊は短編小説&エッセイ『あたしたちよくやってる』。

■笹井都和古(ささい・とわこ)
1994年滋賀生まれ、滋賀育ち。京都精華大学人文学部中退。2016年「県民には買うものがある」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」友近賞を受賞。ドラえもんとハムスターがすき。
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最終更新:2019/07/12 18:00
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