外資系戦略コンサルタント・CuteStrategy氏寄稿

1回1,000円で担当とハグ……男性地下アイドルが“過剰な”ファンサービスを続ける本当の理由

2019/05/26 16:00
CuteStrategy

ジャニーズのある変化が、男性地下アイドルの活動を脅かす

 現在、男性地下アイドルにとって、最も理想的なサクセスストーリーは、小規模会場でのライブや、SNSでの発信がネットで注目を浴び、マスメディアに進出してファンを大きく増やし、大規模会場でのライブ活動を実施することであろう。しかし、そのストーリーを実現するために彼らの行く手を妨げる大きな存在が、本来競合するはずがない“ジャニーズ”である。

 テレビ、映画、雑誌などのマスメディアを活動の主体にしたジャニーズは、TOKIOや嵐など、一般的な認知度と人気を誇るグループのメディア出演を交渉カードに、若手グループのメンバーをマスメディアに出演させる、いわゆる“バーター出演”を利用して、認知度と人気を継承していく流れを作った。しかし、近年のWebメディアの台頭は、ジャニーズの独占状態を脅かすこととなる。

 ジャニーズの人気を支える10~20代や、消費を支える30代以降の女性が、スマートフォンを起点としたWebへのアクセスからメディア消費をするようになる一方、ジャニーズはマスメディア中心の戦略を変えず、ネット上には顔写真すら使用していなかった。その結果、若手グループの一般知名度を著しく下げてしまった。

 いよいよ危機感を持ったのか、Webメディアへの露出を実質的に“禁止”してきたジャニーズも、昨年ようやくネットニュースでの写真使用を解禁し、動画サイト「YouTube」にチャンネルを開設するなど、マスメディア以外にも露出するように。しかしこれらの動きは、ジャニーズ唯一の未開の地だったWebメディア戦略にシフトする男性アイドルにとって、新規ファンの獲得を一層難しくしたと言えるだろう。

ネット時代だから出現した、意外な競争相手

 男性地下アイドルの競争相手は、ジャニーズや中堅男性アイドルグループだけではない。実は最も大きな脅威となるのが、「東海オンエア」や「Fischer’s」など、男性グループで活動するYouTuberである。彼らは女性ファンを中心に、数百万人ものチャンネル登録者=ファンを有し、Webメディアを巧みに活用している。最近では、18年6月~19年1月に「Fischer’s」がイベントを開催し、Zeppダイバーシティ東京を2日間満員にしただけでなく、大阪、福岡、札幌でもキャパシティ最大2,000~3,000人の中規模会場を埋めている。

 彼らYouTuberの収益は、その膨大なチャンネル再生回数から生まれる動画サイトの広告料や、企業とのタイアップに依存しているため、前述した男性地下アイドルが陥る2つのジレンマに悩まされることもない。つまり、マスメディアはジャニーズ、WebメディアはYouTuberによって、大きなアピールの場をふさがれている状態なのだ。接触サービスに依存することでジレンマを抱える男性地下アイドルに待ち受けているのは、明るい未来ではなく、男性地下アイドル同士で数少ないファンを奪い合う、“レッドオーシャン”なのである。

■CuteStrategy
京都大学・大学院を卒業後に、外資系戦略コンサルティングファームへ。 企業や政府、自治体などのグローバルリサーチ、事業戦略立案に携わる。激務のプロジェクトに苦悩している中、アイドルに一命を救われてから一転アイドルオタクに。経営学的観点からエンタメ業界を分析する視点が好評で、多くのメディアで紹介されている。
ブログ「外資系戦略コンサルタントの視点から見たアイドル・ビジネス」/Twitter

最終更新:2019/05/26 16:00
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