インタビュー

娘と性交する父親は「許されない」のに「無罪」――日本の「近親姦」をめぐる“捩れ”

2019/05/25 18:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

性虐待は「発覚しづらい」「珍しいことではない」

――そうした中、「監護者性交等罪」が新設されたのは、非常に意味のあることだと思いました。どのような流れで生まれたものなのでしょうか。

後藤 2000年に「児童虐待防止法」ができたことにより、「親が子どもを虐待するのはいけない」ということが、初めて規範として明らかにされました。もちろん以前から、「児童福祉法」の中に「要保護児童」の項目があり、虐待された児童は保護されることになっていたのですが、「虐待」という言葉は前面に出ていなかったのです。児童虐待への問題意識が高まる中で、「性虐待は処罰の対象」と考える人も増えてきたように思います。

 しかし、児童虐待防止法は子どもを保護することに焦点を当てている「防止法」ですので、「児童虐待罪」を規定していません。また現在の刑法では、性交同意年齢が「13歳未満」とされ、つまり被害者が「13歳未満」であれば、暴行・脅迫がなく、たとえ抵抗しなくとも、加害者は罪に問われるのですが、「13歳以上」の場合、暴行・脅迫があったことや抗拒不能だったことが立証できなければ、加害者は罪に問われない。ほかの経済先進諸国に比べて性交同意年齢が「13歳未満」と低く設定されていることで、年長の児童に対する、刑法による近親姦処罰のハードルは高いままでした。もちろん、児童福祉法の「淫行をさせる罪」での処罰は可能ですが、犯罪の重さは異なります。性虐待は発覚しづらいという面を考えると、事件化するハードルはかなり高く、それを解消するためにできたのが「監護者性交等罪」。ただ、性交同意年齢が13歳未満ではなく、「16歳未満」であったら、そもそも監護者性交等罪を作る流れはなかった可能性もあると思っています。監護者性交等がいけないことであると、条文で明文化されたことは、とても大事なことだったと感じていますが、性交同意年齢の改正も引き続き必要だと思います。

――児童虐待相談件数自体はうなぎのぼりであるのに対し、性虐待の相談件数は増えていないようですが、やはり「発覚しづらい」という点があるのでしょうか。

後藤 愛知県の事件でも、被害者女性は中2の頃から性虐待を受けていましたが、その事実は19歳になるまで外に出ませんでした。彼女は「弟たちを犯罪者の息子にしたくないことから通報をためらった」と言っていましたが、性虐待を訴えることにおいて「自分の親を犯罪者にする」という心理的ハードルは高い。母親も、自分の夫が子どもに不適切な行為をすることを信じたくないと、見て見ぬふりをするケースも多いのです。ただ表に出ないからといって、性虐待は珍しいことではないのです。私が理事長を務める「特定非営利活動法人子どもセンター帆希」は、おおむね15~19歳の女子を受け入れるシェルターを運営しているのですが、そこにいる子たちは、ほとんどが性虐待を受けています。父親の子どもを妊娠し、出産しなければいけなかった中学生も、少なからずいるのです。

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