一筋縄じゃいかない問題

「性別関係なく選べる制服」は成功したのか――導入1年で見えてきた、“矛盾”と“無意識の偏見”

2019/04/18 19:00
小沢由衣子

保護者の反応から見える、“無意識の偏見”

 柏の葉中学校に「制服自由制度を取り入れることが決まった際の生徒や保護者、地域の方々の反応」について質問したところ、興味深い回答が得られた。なんでも、保護者から「『LGBT対応に特化した制服』という報道が先行してしまったことで、“機能性”からスラックスを選択したいと考えている生徒も、LGBTの生徒も、どちらも制服を着用しづらくなってしまったのではないか」という意見が出たというのだ。

 保護者が生徒のこと、すなわち“自分の子ども”のことを心配するのは当たり前だ。しかし、「うちの子がLGBTに見られてしまうのでは」という考えが透けて見え、その裏には、“無意識の偏見”を感じざるを得ない。柏の葉中学校は、男子のスカート着用について「本人や保護者からの申し出があれば、対応します」と答えているが、まだ10代の子どもが親や先生に「スカートをはきたい」と言えるのか、“無意識の偏見”に耐えられるのかどうかは、大きな疑問が残る。

 “制服自由制度”は画期的な取り組みとして大きな話題になったものの、まだ始まって日が浅いこともあり、現状では学校・自治体ともに、性的少数者および多様性のある社会への意識は「ほぼ以前と変わっていない」というのが正直な印象だ。本来なら、いち早くこの制度に着手した学校や自治体が、メディアの取材に積極的に応じ、自信を持ってこの取り組みを世に知らしめるべきだと思うのだが、どこも消極的な対応だった。これこそがまさに、今の日本が「少数派」をどう扱うのかという問いへの答えだと言えるのではないだろうか。

 そしてもう一つ、非常にデリケートなこの制度が、「LGBTに配慮」「男子もスカートOK」という言葉で世間に広まったことで、現場が混乱している状況も見て取れた。“制服自由制度”は、大きな矛盾をはらんだ制度といえ、それゆえ報じる側に課題が存在するのも確かだ。

 とはいえ、この取り組みに大きな意義があることは間違いない。柏の葉中学校は、18年に行われた「保護者説明会」の資料で制服を男女別に記載していたが、19年の「新入生保護者説明会」の資料では、制服について男女の区別をしていない。この点について、同校の滝教頭は「『自由に選択できる制服』としていることから、男女別で記載しないほうがいいのではないかと考え、今年度は男女の記載はやめました」と述べている。生徒の多様性を認めるべく、学校が日々模索しているのは間違いないだろう。

 性的少数派に限らず、さまざまな生き方を多感な10代の子どもに教えていくことは、想像以上に大変なのだろう。しかし、教育現場に関わる人たちはもちろん、社会全体がこの取り組みを前向きに捉えることで、何かが大きく変わっていくのではないだろうか。新しい時代・令和では、「多様性を認める」ことなどごく当たり前のこととなるよう願ってやまない。
(小沢由衣子)

最終更新:2019/04/18 19:00
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