「元極妻」芳子姐さんのつぶやき49

元極妻が考える「アポ電問題」――ヤクザの間に“オレオレ詐欺”が広まるワケ

2019/04/14 17:00
待田芳子

「オレオレ詐欺や強盗殺人は、不良のやることじゃない」

 少し前にオットの兄弟分のAさんが長期の務め(懲役のことです)を終えて出てきました。80歳近いですが、まだ「現役」のヤクザです。

 「でも、もうやめようかと思って」と寂しそうに言います。「そもそもシノギがないし、知り合いがみんなオレオレ詐欺をやってて、びっくりした」のだそうです。

「クスリ(違法薬物)は昔からさわる(売買する)ヤツはいたけど、オレオレはねえだろう。ましてやゴウサツ(強盗殺人)って、不良のやることじゃない。若い衆も、あんなことするために不良になったわけじゃねえだろうに。情けねえよなあ」

 Aさんは、ちょっと泣きそうです。長い間の収監で拘禁反応(神経症、鬱状態、幻覚、妄想など、自由を拘束された状態が続いた場合にみられる精神障害)も残っているかもしれませんが、今のオレオレ詐欺のまん延を純粋に悲しんでいるようでした。

 念のため申し添えますと、Aさんはヤクザで組織のために人を殺していますから、「いい人」ではないですし、いわゆる「任侠」的な「弱きを助ける」タイプでもありません。それに、マルチ商法などほとんど詐欺みたいなシノギをしているヤクザは、昔からたくさんいます。それでもAさんは、「年寄りを騙すなんてカッコ悪い。しかもゴウサツなんて最低」と憤懣やるかたない様子でした。

 Aさんによると、獄中(なか)でも、受刑者の間でオレオレ詐欺はよく話題になっていたそうです。刑務所でも、ある程度は新聞や雑誌が読めますし、テレビも視聴できますから、シャバの事情はだいたいわかるのですが、まさかここまでオレオレ詐欺が広まっているとは思わなかったんですね。

 もう何度も書いていますが、これは過剰な暴力団排除条例のせいです。「暴力団員」を徹底的に排除して、受け皿もなしに「排除されたくなければ暴力団をやめろ」と言うだけでは、世の中は平和になりません。

 そもそもやめたところで誰も雇ってくれませんし、ほとんどの条例は、やめても5年間は「暴力団員」と見なすとしています。これでは、生きていくためにオレオレ詐欺や違法薬物売買に手を染めるしかありません。それに、今はひとつのヤクザ組織ではなく、他組織や半グレなど「暴力団」以外の組織や、元暴走族など町の不良などが集まって犯罪グループを作ってカタギを狙っています。これから、ますます高齢者などの被害は増えるでしょうね。

 それもこれも、ここまでヤクザを追い詰めてしまった暴排条例が元凶なのです。求められているのは排除ではなく、元ヤクザや元受刑者を受け入れる環境の整備だと思います。

最終更新:2019/04/14 17:00
極姐2.0 ダンナの真珠は痛いだけ
排除しても犯罪は減らない
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