[連載]海外ドラマの向こうガワ

『THIS IS US』5つの魅力――“ドラマ疲れ”のアメリカで、一見地味なファミリー作品が愛されたワケ

2019/04/12 21:00
堀川樹里

魅力2)「THIS IS US これは私たち」と思えるストーリー

 三つ子と同じ誕生日の父親ジャックは、母親が父親から日常的に暴力やモラハラを受けるすさんだ家庭で育ったため、自分は温かい家庭を築き、良き夫、良き父親でありたいと努力する。深酒するという問題も抱えているが、アルコール依存症だった父親のようにはならないと、家族を第一に考えて断酒を決意する。

 母親レベッカも、過干渉の実母を反面教師にしている。専業主婦として大奮闘してきたが、子どもたちが10代になると「子どもから必要とされていない」と感じるようになり、自分の価値を見いだせなくなる。もう一度、歌手としての夢を追いかけたいと行動に移すが、ジャックに猛反対され、夫婦関係はぎくしゃくしてしまう。

 理想の夫婦/親であるジャックとレベッカだが、描かれているのはきれいごとだけではない。愛する人のために、仕事や親との関係においてどれだけ妥協をしなければならないのか、犠牲を払わなければならないのかもリアルに描かれており、深く共感できるのだ。

 ランダルが探偵を通して見つけ、交流を持つようになった実父ウィリアムは、耐えられない悲しみのせいで薬物に手を出し、人間関係も壊れ、後悔の多い日々を送ってきた。しかし、彼はそれもまた人生だと受け入れている。ウィリアムの物語にはホロリとさせられるとともに、人生における「後悔」をこれ以上増やさないためにはどうすればよいのか、考える機会を与えてくれる。

 ウィリアムはランダルと再開を果たした時点で末期の胃がんを患っており、ジャックも現在のパートでは故人となっている。長年「父親の死の悲しみ」を封印していたケヴィンが、夫を亡くしたばかりの未亡人の前で「こうすればよかった」と号泣し、悲しみを吐き出すシーンもある。愛する人の死には、少なからぬ後悔が付きまとうこと、トラウマになることも丁寧に描かれており、愛する人の死、身内の死を経験したことがある人なら、自分と重ね合わさずにはいられなくなる。

魅力3)チャーミングなトビーというキャラクター

 人生を描いた重厚な『THIS IS US』で、ギャグを飛ばしクスっとさせてくれるのが、人気キャラクターのトビーだ。彼は減量プログラムで一目惚れしたケイトに積極的にアプローチをかけ、閉ざされていたケイトの心を少しずつ開けていくのだが、その言動が最高だと視聴者から愛されるように。

 減量プログラムに入っていたくらいなので彼は肥満体形なものの、卑屈になることなく、人生をエンジョイしたいタイプ。美男子でもお金持ちでもないが、明るい性格と、ウィットに飛んだ話術、そしてブラックな笑いのセンスでケイトを笑顔にさせてくれる。

 パーティーを楽しめないケイトの手を引いてダンスを踊ったり、彼女の歌唱力に惚れ込み、歌うことを勧めたり。人前で歌うことを躊躇する彼女のために「叔母が住んでいる老人ホームでのミニリサイタルなら緊張しないだろう」とセッティングしたり。行動の裏に下心があることは認めるものの、無理強いはせず、紳士的であるため嫌な感じは全くしない。

 さりげなくケイトを力づけてくれるトビーは、まさしく「理想の恋人」。ケイトへのサプライズも過剰ではなく、彼女が本当に喜ぶことをするあたりも、女性視聴者をときめかせている。

THIS IS US/ディス・イズ・アス 36歳、これから Vol.1
中年になるとより沁みてくるドラマ!
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