がん研究者・大須賀覚氏寄稿

池江璃花子選手、堀ちえみさん……有名人から「がん公表」を受けた我々が“すべきでないこと”

2019/03/21 17:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

【Q2】有名人のがん公表、「マスコミ報道」の問題点は?
【A】「がんになった要因を探るため、過去の行いを振り返るのはよくない」

 まず、マスコミが正確性の低い医療情報を提供するのは大きな問題です。正確性を欠いてしまう原因はいくつかあります。

 一つはがんという病気が多種類の病気の集まりということの理解が低いことに起因します。肺がんと大腸がんでは違う病気ということくらいは配慮していても、例えば乳がん一つとっても、どの種類の乳がんか、どのぐらい進行しているのかで、症状・治療・予後も大きく変わってきます。その辺りの配慮が低いことがあり、時折、誤解を招いていることがあります。

 予防手段の情報についても適切でないことがあります。肺がんはタバコを吸ったことでなるということを、極端に単純化して、過度に強調してしまうことで、タバコを吸わなければ肺がんを完璧に防げたのではないかというような印象を与えてしまったりもします。実際にはタバコを吸っておらず肺がんになる人もたくさんいるわけで、正確性の欠く情報は誤解を与えていることがあります。

 がん検診に関しても、その効果を過度に強調していることがあり、これも検診を受けていれば早くに見つかったのに、それを患者は怠ったというような印象を与えてしまい問題です。検診で早期発見できるがんはごく一部であることや、それも完璧なものでないことなどを、正確に伝えることが重要だと思います。

 もちろん、がんを予防するために喫煙の害を強調することや、がん検診にしっかりとかかるように報道することは、とても大事なことです。ただ、がんという病気の発症機序はとても複雑で、検診も万能ではないので、過度の単純化は時に違う問題を引き起こすことがあるので、注意が必要です。

 あと、芸能人のがん報道で問題なのは、過去を振り返る報道。なぜ、がんになってしまったのか、過去のどのような行いがあって、それが影響したのかを、勝手に詮索して、現在の状況との因果関係を見つけようとすることです。この人はヘビースモーカーだったとか、大酒飲みだったとか、検診を受けていなかったとか、根拠のない治療を受けていたからがんが進行したなどは、典型的な過去を追及する報道です。これは本当に良くないです。

 がんはとても複雑な病気で、たとえ典型的な因果関係があるような生活習慣が過去にあったとしても、それが必ずしも関わっているとは限りません。また、人という生き物は常に完璧な生活をできるわけでは、もちろんありません。誰だって細かく探せば、悪い生活習慣はあるものです。過度に責任追及することは良くないです。また、このような報道は、間接的にほかのがん患者や家族も傷つけることになっています。

 マスコミのこのような報道が影響して、一般の方は、がんに関するさまざまな勘違いをしてしまいます。例えば、生活習慣を完璧にあらためて、検診も毎年受けていたら、がんはならないものだと思い込んでしまうことや、自分や家族ががんになってしまった場合に、強く後悔してしまうこともあるでしょう。がんは誰にでも起こりうる病気です。
報道はどうしても単純明快で、センセーショナルなものを好みます。そのため、誤解を誘導してしまうことが多く、そのことがさまざまな問題を引き起こしています。

『堀ちえみ/Chiemi Hori Memorial live 2005』
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