【連載】オンナ万引きGメン日誌

万引きGメンが語る「悪い女」! 柳原加奈子似の25歳専業主婦が、微笑みながら明かした逮捕歴

2019/03/09 16:00
澄江
Photo by mrhayata from Flickr

 こんにちは、保安員の澄江です。毎月のお給料が少なすぎて、たいした貯金もしていない私ですが、都内各地の現場では数多くの“貯金”を持っています。我々の世界でいう貯金とは、限りなく被疑者に近い不審者のこと。例えば、商品の棚取り(棚から商品を手に取ること)を見ていない状況で、不自然に周囲を警戒しながら手にある商品をバッグに隠す場面を見ただけだと、犯意が成立させられず、捕まえることはできません。そんな時には、イラつく気持ちを抑えながら、顔やバッグ、隠した商品、服装などを記憶に刻んで見送り、後日につなげるほかなく、そうした人物のデータが貯金となっていくわけです。

 日常の業務で、そのような場面に遭遇することは意外に多くて、タイミングが合わずに何度も見送っている不審者も数多く存在しています。同じ現場に入るほかの職員との情報交換も欠かせず、いただいた情報と特徴の似た人の行動を確認した結果、犯行を現認するケースも少なくありません。万引きする人たちは、同じような行動を繰り返すので、人着(人相や特徴、着衣など)や手口の判明は有力な情報となるのです。先日、20年以上にわたってお世話になっている都内の古臭いショッピングモールで捕らえた女性被疑者も、そんな貯金のうちの1人でした。

(あ! やってる!)

 出勤の挨拶を終えてモール内の食品売場に入った瞬間、先日ご結婚された柳原加奈子さんを不良少女にしたような雰囲気の若い女性が、私の目の前で、妙に慌てたようにカゴの中にある商品を大きなボストンバッグに詰め込み始めました。詰め込んでいる商品は、ステーキ肉やイチゴ、チーズなど、どれも比較的高価なモノばかりで、彼女の示す挙動からすれば商品を盗んでいるに違いない状況といえるでしょう。しかし、犯意成立要件である棚取りは一つも見ていないので、このまま店外に出られても捕捉することはできません。

(あと一つだけ、盗ってくれないかしら……)

 すでに隠した商品の精算状況を確認したい。その一心で、さらなる犯行を期待しましたが、全ての商品を詰め終えた彼女は、私の望みを叶えることなく売場を離れていきました。盗んだと思われる商品を詰めたボストンバッグには、子どもの写真を使って作られたキーホルダーがついており、それを目印にしてあとを追うと、食品売場の脇にあるフードコートに入っていきます。

 しきりに後方を振り返る彼女の視線に注意しながら、彼女のあとに続く形でフードコートに入ると、3~4歳くらいに見える子どもが、悦びに満ちあふれた無邪気な表情で彼女の方に駆け寄ってきました。その子が座っていた席には、父親らしき体格のいい強面の男性も座っており、彼女の後方周囲を見回すようにしています。子どもたちに手を引かれるようにして座席に向かう彼女も、キョロキョロと周囲を警戒していて、お互いが承知の上で犯行に及んでいるような雰囲気です。それから小一時間ほどフードコートに滞在した一家は、売場に戻ることなく駐輪場に向かうと、2台の自転車に分乗して帰っていきました。ただ見送るしかできない自分の不甲斐なさに、地団駄を踏む思いで一杯になったことを覚えています。

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