【連載】オンナ万引きGメン日誌

風俗嬢万引き犯と連絡先を交換……! 万引きGメンの「タブー」犯した後輩の思い出

2019/02/23 16:00
澄江

彼女が「もう保安員はやらない」ワケ

 事務所に報告させると、その場で出勤停止となったSちゃんは、ここから直接警察署に出向いて事情聴取を受けることになりました。電話口の部長さんから、随分と厳しいことを言われたようで、気の強いSちゃんの目に涙が溜まっているのがわかります。

「ねえさん、あたし、もうダメかもしれないです」
「ちゃんと話せば、大丈夫よ。悪いのは、その女なんだから」

 目に見えるほどの絶望感に包まれたSちゃんの姿は、見ていて痛々しいほどでしたが、末端職員の私にできることもありません。出勤前で時間もないことから、大丈夫と励まして、警察署に送り出すほかないのです。その日の勤務は、Sちゃんのことが気になってしまったためか集中できずに、なにひとつ成果を出せないまま終了してしまいました。

 顔馴染みの刑事さんから共犯扱いの取り調べを受けたというSちゃんでしたが、被疑者とやりとりしていたメールの内容から疑いが晴れると、当たり前のことですが何らの処分を受けることなく解放されました。しかし、被疑者と連絡先を交換したうえ、共犯の嫌疑をかけられたことを重くみた事務所は、クライアントへの面目を保つためなのかSちゃんを解雇してしまったのです。

 Sちゃんと会うのは、それ以来のこと。ずっと気にかけていたので、顔を見ているだけで、さまざまな思いが溢れ出てきます。

「仕事帰り?」
「はい。いまはデパートで、レジ打ちやっているんです」
「保安は、もうやらないの?」
「怖い思いもしたし、どうしても情が入ってしまうので、もうやりたくないですね。ねえさん、ケガしないように気をつけてくださいね。近いうちに、ゆっくり飲みましょう」

 別れ際に、あらためて連絡先を交換した私たちは、それぞれに到着した別方向の電車に乗り込むと、手を振り合ってお互いを見送りました。離れ行く電車を目で追いつつ、直接言えなかった言葉を心の中で呟きます。

(あの時、助けてあげられなくて、ごめんね……)

 少し混雑する車内で、そっと涙した私は、二人で過ごした現場の日々を思い出しながら家路につきました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

最終更新:2019/02/23 16:00
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