インタビュー

セレブ家庭で虐待は起こらない? 南青山児相建設計画、元児童福祉司が語る「反対派」の盲点

2019/02/09 17:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

虐待は「貧困か裕福か」の二元論では語れない

――世間では「貧困家庭に虐待が多い」という認識も強いのですが、実際に統計データなどは出ているのでしょうか。

金井 もともと児相が、虐待を虐待として統計を取り出したのが1990年からなんです。それまで虐待は、家庭の経済的問題を背景とする「養護問題」に分類されていたので、そうした背景から、家庭の経済状況と虐待が密接に関連づけられるようになったのでしょう。しかし、実は、経済問題と虐待に関するエビデンスや論文はそれほど多くないので、実際のところは何とも言えないのが現状なんです。虐待はさまざまな要因が重なって起きるものであり、貧困か裕福かの二元論で語れるものではないと思います。裕福な家庭でも、「この子のせいで自分のキャリアを犠牲にした」と感じて子どもに愛情を持てないとか、子育て能力が低かったり、うつ病などできちんと養育できないという親御さんはいますからね。

 ただ、虐待は、その程度によって「軽度・中度・重度」に分けられるのですが、貧困家庭では、経済的な問題から親が気持ちにゆとりを持てず、虐待が重症化しやすい傾向はあると思います。ニュースで取り上げられるのも、そのようなケースが多いので、イコールで見られやすいのでしょう。

――逆に、裕福な家庭の虐待はあまり表面化しないですよね。

金井 経済的なゆとりがあるぶん虐待が重度化するリスクが低いというのもありますが、社会的地位や権力のある男性が家庭内DVを働く、そしてそれを子どもが目撃する……という話を聞くことはよくあります。そういった人たちは、体裁を気にしてバレないようにうまく取り繕いますし、周囲も「まさか」と思っているので、介入や通告がされにくく、表面化しづらいという面も大きいです。妻がケガで受診したり、夫から逃げ出したりして初めて明るみになるケースも少なくないんですよ。

――表面化しづらいと、虐待のダメージも深刻化しやすいのでは。

金井 DVを目の当たりにした子どもは不安定になりやすく、家庭内暴力に走ったり、不登校になったり、わざと親を困らせたりといった形で症状を出してくることも多いです。以前、母親と密着状態になった幼児が、母親の気を引きつけたい一心で、首を吊るマネをしたこともありました。また、女の子の場合では、鬱になった母親の代わりとして、母親の“母親役”を担ってしまう“偽成熟”になるなど、両親の離婚後に問題が出てくることも多々あります。心理的虐待(DVの目撃)は、両親の離婚や一時保護をすれば解決すると思われがちですが、後々まで子どもに大きな影響を与えるので、早期に発見して、軽度のうちにケアしなければなりません。

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