“中学受験”に見る親と子の姿

「本命校よりはるか下の偏差値なのに……」1月受験に失敗した中学受験生の母、その悪夢の先

2019/01/27 17:00

塾の先生が息子にかけた“魔法”の言葉

 たこ太を塾に送り出した後、「室長は、息子にどうやって不合格を伝えるつもりだろう……」と途方に暮れていたが、塾終了後、息子に話を聞くと、こんな意外な言葉で励ましてくれたそうだ。

「おめでとう! 良かった、良かった!」

 私は驚いて、その真意を室長に確認した。

「お母さん、僕は授業終了後にたこ太を呼び出して、『たこ太、1月校、残念な結果になったぞ』と伝えました。たこ太は、一瞬だけハッとした顔をしましたけど、僕はその瞬間、間髪入れずに言ったんです。『たこ太、オマエ、良かったな~!』って」

 不合格を祝福されるとは夢にも思っていなかったので、それが事実と知って、私はさらに驚いた。室長は続けた。

「たこ太が不合格だったのは、本番の雰囲気に呑まれただけのことです。たこ太の実力がこんなもんじゃないことは、ずっと勉強を教えてきた僕が一番よく知っていますよ。たこ太にもそのことは伝えました」

 なんでも室長は、たこ太に、「これが受験の怖さである」ということを伝えてくれたそうだ。その上で、「でも、オマエは予行演習を終わらせた。本番はもう大丈夫だ。オマエは1月校に行きたかったか? そうじゃないだろう? 行かない学校はどうでもいい。いや、むしろ落としてくれて礼を言いたいくらいだ。たこ太、これはいい練習だった。オマエはオマエの第1志望に、自分の力で行け! オマエなら必ず行ける。これは俺が保証しているんだ、わかるな?」と激励してくれたという。

 ここまで話を聞いた私は、胸が潰れそうになったが、室長はもう一押しとばかりに、「たこ太、もう一つだけ言っておく。お試しに落ちたヤツは本番に必ず受かる。俺がおめでとうって言う意味、わかるな? ラスト2週間だ。俺はオマエを信じている」と発破をかけ、最後に「必ず勝って来い!」と背中を押してくれたそうだ。

 それから、その教室の先生方全員が、たこ太に、次々と握手を求めてくれたらしい。「そうか! 落ちたか!? そりゃ良い知らせの前触れだ。最後に笑うのはお試しで落ちたヤツだからな!」と励ましてくれ、誰一人として、悲観的なことは言わなかったという。

 私は、こういった塾の先生たちの対応を「魔法」だと感じた。魔法にかけられたたこ太は、結局、2月の本番で第1志望校に合格した。

 これを読んでいる読者の中に、もしかしたら今、当時の私と同じ状況に追い込まれている人がいるかもしれない。「毅然としなければ」と思っても、うろたえてしまうのが中学受験生の親というものだ。ならば、今度は私が、そんな親御さんたちに魔法をかけたいと思う。

「お試しに落ちた子が最後に笑う!」
(鳥居りんこ)

最終更新:2019/08/14 18:13
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