[サイジョの本棚]

趣味、処世術、自分を解放するためのツールとして……“装うこと”の自由を示した話題の本『だから私はメイクする』

2019/01/01 19:00

どんなメイクも自分が納得してれば美しい

 また、特別企画として収録された、TBS宇垣美里アナウンサーのインタビューも秀逸だ。ミスキャンパスを経て、民放キー局のアナウンサーになるという、ある種の典型的な「世間が求める女性像」を体現するような経歴を持つ宇垣だが、そんな彼女にとってのメイクは「自分のためのもの」。

 一見おとなしそうで、周りから「御しやすい女性」と思われた学生時代の苦労、就職して「笑ってるだけでいいから」と“お人形”でいることのストレスをためた新人時代を経て、今は「ふっきれた」という宇垣。人一倍周囲の視線にさらされるからこそ、外見には自覚的な意思と戦略がある。強い女に見えるメイクを意識し「化粧は魔除け」「自分の身を守るためによそおってる」「ヒールを履いてるときは『気に入らないことがあったら、これで踏み潰しちゃうぞ(ハート)』という気持ち」ときっぱり語る彼女はすがすがしく、明確にスタンスを示す姿勢はシンプルに格好いい。

 本書に収められたエッセイやインタビューはどれも、時に迷い傷つきながらも「こうありたい」という理想を掲げ、自分の人生と向き合っている人が持つ強さがある。だから、前書きにつづられた、「自分の『好き』をつらぬいた格好も、世間の『ウケ』を狙った格好も、その人の生き方の表明である限り、ひとしく美しく、そしてめちゃくちゃかっこいいものなのです」という言葉が、きれいごとではなくしっくりくるのだ。

 メイクや美容は、好感度の高い女を目指すためだけのものではないし、ましてや嫌々“量産型”の鋳型に自分を押し込めるために使うものではない。女性は(本当は男性も)、自分のために装ったり、時にあえて装わなかったりすることを自覚的に選択することができる。『だから私はメイクする』は、「外見を飾る」ことの楽しみを、よくあるわかりやすい型に収めずに、人生を楽しむ手段の一つとしてバリエーション豊かに示している。装う/装わないことへの固定概念を外し、新たな扉を開くきっかけになってくれるだろう。

(保田夏子)

最終更新:2019/01/08 14:27
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