【連載】オンナ万引きGメン日誌

「窃盗症(クレプトマニア)には刑罰より治療を」ベテラン万引きGメンの私が納得できないワケ

2018/12/23 16:00

原元被告が「化粧品」を盗んでいたことへの疑問

 万引きの現場を知る保安員からみても、果たして「現代の医療現場ではっきりと診断できない病気を、犯行理由にしていいものだろうか」と、大きな疑問を覚えます。

 報道によると、クレプトマニアと診断された原元被告は、化粧品なども盗んでいたそうですが、摂食障害系の万引き常習者の女性が食料品以外の商品に手をつけることは滅多にありません。また、万引き実行後には、捕まえてほしくて店員と目を合わせたこともあったと、原元被告は涙ながらに話していましたが、現場に立つ私たちの観点からいえば、捕捉を恐れて店内の様子を見まわす事後動作(周囲を窺い、不自然に後方を振り返る動作)ともいえ、それこそが彼女の抱える犯意の表れだと考えてしまいます。

 原元被告のように「気がついたら盗っていた」「頭の中が真っ白になり、パーッとなった」と言い訳する常習者も多く、でもその割には巧みな手口で多くの商品を盗み出していくので、このような弁解を信じたことはありません。例えば認知症患者による万引きの場合には、悪意がないためなのか、周囲を窺うなど不審な挙動を示さないまま、まるで自分の家にあるものを扱うように堂々と実行していきます。たとえ頭の中が真っ白になったり、パーッとなったとしても、善悪の判断基準があるにもかかわらず、その衝動を制御できずに一線を越えてしまうことが犯罪だと思うのです。

 さらに、原元被告は、最後に捕まる時まで数えきれぬくらい万引きしてきたと、過去の犯行も告白していました。果たして、過去に盗んだ商品の賠償は、どうするつもりなのでしょうか。どこでどれだけ盗んだか、正確にはわからないでしょうから、全てを賠償することは、およそ不可能なこと。たとえ彼女の贖罪や治療が済んだとしても、その被害が消えることはないのです。

「私、本当はこんなことする人間じゃないんです。病気の影響なんです」

 これは万引きして捕捉された中年女性が、よく言うセリフの1つですが、原元被告は、このタイプなのかもしれませんね。一連の発言を聞いていて、病気の影響を理由に、その罪が軽減されることに、現場で彼らと関わる者として、大きな違和感を覚えたのは言うまでもありません。

 後編では、私が実際に経験した「摂食障害を主張する万引き常習犯」について語ろうと思います。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

(後編につづく)

最終更新:2018/12/25 10:03
万引き老人
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