【連載】オンナ万引きGメン日誌

「窃盗症(クレプトマニア)には刑罰より治療を」ベテラン万引きGメンの私が納得できないワケ

2018/12/23 16:00

クレプトマニアはアメリカ精神医学会で精神疾患として認められているが……

 大久保先生いわく、「クレプトマニアはアメリカ精神医学会の精神障害の診断と統計マニュアルで疾患として認められていますが、日本だけではなくアメリカなどでもクレプトマニアについての診断は難しいととらえられています。日本ではクレプトマニアの基準について、一部の精神科医が疑問を投げかけていて、診断が難しいにもかかわらず、積極的に診断が行われている現状があります」とのこと。やはり日本のマスコミで取り上げられている状況を、そのまま受け止めるのは難しく思えてきます。

 テレビに出ていた精神保健福祉士によると、万引きを止やめたくてもやめられなかったり、気がついたら盗ってしまっているとか、自分の気持ちだけではコントロールできないという症状のある人は、窃盗症の疑いがあると話していました。家族関係や家庭環境に問題を抱える人が多く、摂食障害による過食嘔吐を繰り返して経済的に苦しくなると、食べ吐きを繰り返す目的のために商品を盗むようになるのが窃盗症の典型例だそうです。ですが、大久保先生は「厳格に診断基準を適用すると診断がつかないというのはアメリカも日本も同様です」と言われており、このような理由だけでは簡単に診断ができない事実もあるといいます。

 確かに、万引きする人は孤独で、経済的に恵まれないような状態にある方ばかりなので、精神科医などが病気だと認めれば多くの被疑者が何かしらの疾患に該当してしまうことでしょう。しかし、それらを全てクレプトマニアだと決めるのは、専門家の目からするといささか疑問に感じると大久保先生は言います。。

「日本では現在、一部の精神科医と弁護士を中心として、万引きを繰り返す常習者を積極的に疾患としてとらえていく傾向がありますが、クレプトマニアを疾患ととらえることが何をもたらすのかについて議論されていないのが現状です。全米万引き防止協会(National Association for Shoplifting Prevention)によると、アメリカではクレプトマニアの診断が裁判所の判断に影響を及ぼすことはないそうです。しかし、日本では一部の精神科医と弁護士が疾患を理由に減刑させるための活動を行っています。私の行った調査によると、クレプトマニアのふりをしている人もいると思う精神科医は約8割存在しており、その結果をみても現状に違和感を覚えます」

 医療現場においてクレプトマニアの診断は難しく、また減刑目的の詐病者がいる可能性がある。それにもかかわらず「刑罰より治療を」とする声を、多くのメディアが取り上げていました。先生の話を聞いていると、それがクレプトマニアではない万引き犯に対する免罪符にもなりかねず、言い訳による犯罪格差のようなものまで感じてしまいます。

 大久保先生も同様に危惧されています。

「万引きとは、悪いことはわかっているが、言い訳ができてしまう犯罪であると私は思います。クレプトマニアという診断がつけば、とても都合の良い言い訳になってしまうわけです。専門的に言うと、現在の日本では、クレプトマニアが万引きの動機の語彙として用いられてしまうということではないでしょうか」

 さらに、クレプトマニアに関係する一部の医療関係者や法曹関係者について、先生はこう指摘されました。

「私の調べで、『診断は難しい』と考える精神科医は約8割存在し、積極的に診断をしていくことの賛否は、ほぼ半々です。非常に診断が難しい現状であるにもかかわらず、一部の精神科医が積極的に診断し、そうした被告の弁護を専門的に受任する弁護士が存在している。つまりクレプトマニアが利用されている、言ってしまえばビジネスになりつつあると感じています」

万引き老人
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