ドラマレビュー

田中圭、『獣になれない私たち』『おっさんずラブ』の根底にある“無自覚な色気”の正体

2018/12/10 21:00

 水曜夜10時から放送されている『獣になれない私たち』(日本テレビ系、以下『けもなれ』)が最終回を迎える。

 物語の主人公は、IT企業で営業アシスタントとして働く30歳の女性・深海晶(新垣結衣)。晶の勤める会社はブラック企業で、ワンマン社長に仕事を押し付けられ疲弊している。交際4年目になる恋人の花井京谷(田中圭)は、仕事を辞めて引きこもりになった元恋人の長門朱里(黒木華)を心配して同居しているため、結婚できない。仕事でも恋愛でも行き詰まっていた晶は、ある日、行きつけのクラフトビールバーで、ミステリアスな会計士・根元恒星(松田龍平)と知り合う。

脚本は『けもなれ』と同じ新垣主演で人気作となった『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の野木亜紀子。物語は大人の群像劇で、主要人物はみんな、仕事や恋愛の悩みを抱えている。最終話は、友達以上恋人未満である晶と恒星の関係がどうなるのか見どころだが、本作で一番おもしろかったのは、田中演じる京谷を中心とした三角関係の物語だ。

 京谷は晶のことを大事にしているものの、元恋人の朱里を見捨てることはできなかった。真面目で優しい男だが、それは優柔不断なだらしなさと表裏一体であり、その優しさゆえに晶のことを傷つけてしまう。しかも京谷は、恒星の元恋人の橘呉羽(菊地凛子)とも一夜を共にしてしまう。クールで危険な匂いがする恒星を演じる松田と対峙すると、京谷を演じる田中は野暮ったく「何でこいつがここまでモテるのだ?」と思ってしまうが、田中の無防備で誠実な笑顔を前にすると、ついついガードが甘くなってしまうのだろう。そして、いつの間にか心を許してしまい、離れられなくなってしまう。

 わかりやすいイケメンじゃないからこそタチが悪いのだろう。自分を飾らない自然な優しさゆえに周囲を翻弄してしまう京谷は、愛すべきクズ野郎である。そんな、どこにでもいそうだが絶対にいない男を、田中は屈託のない笑顔で難なく演じている。

田中は野木の脚本家デビュー作となったヤングシナリオ対象受賞作『さよならロビンソンクルーソー』(フジテレビ系、2010年)で主演を務めた。田中演じる主人公が心を病んだ恋人との関係に悩む姿を描いたドラマで、呉羽を演じる菊地もまた、恋人との関係に苦悩する女性として出演しており、本作のリメイク的なドラマが『けもなれ』だと言えるだろう。

 筆者が田中を初めて意識したのは、このドラマだった。彼の演じた、ゴミ清掃作業員の青年が、静かに鬱屈していくナイーブな姿は今でも鮮明に覚えている。

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