『ダルちゃん』著者・はるな檸檬さんインタビュー/後編

物議を醸したラブホテルと、記号化されたコンプレックス――『ダルちゃん』の“成長”とは

2018/12/06 16:00

男女平等の、その先の話

『ダルちゃん』(はるな檸檬/小学館)

――読者の反響の中には、自立したダルちゃんに対し、「結局、男性たちのお世話係になっている。女性はやっぱりそういう役割にならなきゃいけないのか」といった声がありました。

はるな そうしたご感想もいただくかな、と思っていました。でも「女性は」「男性は」というくくりを超えたところに、人それぞれ得手不得手があると思います。そのあたりをフラットにとらえて、「得意な人が得意なことをやればいい」となった時に、きっとこの子はこういうことが得意だろうな、と思ったので。自分の得意なことが誰かの役に立つ、それが仕事の本質だと思うんです。別に女性がやろうが男性がやろうが構わない、という前提で考えたら、「ダルちゃんが女性だからこういう役割である」ではなくて、「ダルちゃんが得意なことをやったら、こういう役割になった」というくらいのことです。男女平等の、その先の話というか。

 でも、どう読んでいただいても、世に出た時点で読者のものになるので、本当に自由にとらえていただきたいのが本音です。

――ダルちゃんはさまざまな経験や年齢を重ねて、表現の楽しさや自立を手に入れました。それは年齢を経て、誰もが会得できることなんでしょうか。

はるな 年齢を重ねた、その年数は関係ないと思います。ただ、年を取ると「負けを認める」「自分の弱みを受け入れる」ことが若い時よりもしやすくなると思う。もちろん人によりますが。若いうちにそれができればいいですが、若いと等身大の自分を見ることに、勇気がいりますからね。思っていた自分と違う自分を受け入れることって、すごくつらいから。

 年を取る、年齢を重ねるって、単純に挫折を味わう可能性が増えるということでもあると思っていて。わたし、挫折経験のない人にあまり魅力を感じないんですが、挫折がないと、本当に人生を理解できないんじゃないかと思うんです。挫折経験こそ、その人の魅力的な部分じゃない? くらいの。

――ヒロセくんもそうした描かれ方をしていたように思います。

はるな そうですね。でも結果的に、ヒロセくんが持つコンプレックスが、2人の仲を引き裂くことになってしまいましたが。そういえば、そんなヒロセくんについて、読んでくれた友達に、「ヒロセ、すげームカつく! ああいう、コンプレックスを売りにしている男っているよね! 別れ話の時、絶対引き止めてほしかったんだよ!」と言われてビックリしたことがありました(笑)。描いた本人も知らなかったヒロセくんの一面を知らされて、へえ〜そんな人だったの!? みたいな(笑)。読み手によって言うことがバラバラで、毎回驚きます。読み手の経験により、それぞれの感想が生まれるんだなと思いました。

――他には、登場人物のどんな知られざる一面を教わりましたか?

はるな サトウさんはわたしから見るといい人でしかないんですが、「サトウさんって、いやなとこあるよね?」みたいな感想もありました(笑)。みんなの中に、それぞれダルちゃんがいるんでしょうね。そう思うと、ダルちゃんはもう生きていて、わたしのコントロール下にいないんだろうなと感じます。

――最後に、単行本発売に際して、どんな方に読んでもらいたいですか?

はるな 若い女性に向けて描いたつもりではありましたが、連載中、意外と50代男性から感想をいただいたりして驚いたこともありました。なので、年齢や性別で区切らず、こうした感覚を共感できる人になら、誰でも読んでほしいです。ダルちゃんはもう、わたしの手から離れているので、どんな人がどんな感想を持っても、それぞれの解釈で楽しんでいただけたら、と思います。

(取材・文=有山千春)

 

はるな檸檬(はるな・れもん)
1983年宮崎県生まれ。2010年に宝塚ファンを題材にした『ZUCCA×ZUCA』(講談社)でデビュー。他に自身の読書遍歴を描いた『れもん、よむもん!』(新潮社)、出産体験を描いた『れもん、うむもん!』、宝塚ファンの夫婦を描いた『タクマとハナコ』(文藝春秋)など。

最終更新:2018/12/06 16:00
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