婦人科医・早乙女智子先生インタビュー(前編)

「男も世間も、女にラクをさせたくない」性の現場から語る、女性権利“不在”の日本の現状

2018/12/04 16:00

日本の性教育に対する意識は医師も世間も遅れすぎている

――ピルの認可や社会での扱いについては、よく海外と比較されますね。

早乙女 海外で緊急避妊ピルといえば、大学内の自販機で手に入るようなものです。学生には普通のピルも無料で配られる国もあります。女性の体を守るための薬なのに、日本では何十年たっても変わらない。「ピルを飲んでまでセックスがしたいのか」という批判がありますが、自由にしていいものを、なぜしてはいけないのでしょうか。緊急避妊ピルなんて1〜2万円、人工妊娠中絶も10万円以上かかってしまうなど、世界から後れを取っていて、まったくお話にもなりません。

――性教育にも反対派が大勢いたり、「高校生が婦人科に行くなんてふしだら」といった意見がネットでは飛び交ってますが……。

早乙女 性教育をちゃんと受けた真面目な高校生カップルが、受験もあるし、「妊娠したら困るよね」と婦人科に相談に行ったら、「高校生にはピルは出さない」と断られたそうです。高校生のセックスなんて普通のことなのに、大人は見たくないから目をそむけているんです。「性教育を受けて真面目に自分たちで考えて素晴らしい!」という話なのに、医師も世間も遅れすぎています。日本では、妊娠したら女性だけが高校中退させられ、大学にもまともに通えないケースが少なくありません。それなのに妊娠させた男はその後、普通に暮らしていくんです。最近はそうした女子高校生を支援する機運が高まりつつあるものの、あらゆる意味で、社会が女性を貧困に追い込む形になっている。オランダなら、高校生が妊娠しても養子のシステムを提案してくれたりします。結果的に、痛い思いもつらい思いも、女性だけにかぶせようとしているように思います。

――政治家も「産め産め」と騒いで、プライバシーの侵害を頻繁に行っていますが、その現状についてはどう思われますか?

早乙女 そもそも女性も男性も、体のどこにも機能的に問題がなく健康でも、10人に1人は子どもができないということを知らないで政治家は言っている。誰でも子どもができるわけではないことを、国民全体に知らせるべきです。中高生の段階で教えておかないと、いざ子どもを作ろうとしたときに、なぜできないのかと悩んでしまう。10%といえば、結構な確率です。

――政府は、女性が早く子どもを産むように働きかけたりしていますが……。

早乙女 以前、文部科学省が高校生向け保健体育の副教材で発表した「22歳が妊娠しやすいピーク」という数字も、データが改竄されていました。妊娠のしやすさは、33歳くらいまでは年齢に関係なく変わりません。20 代から妊娠を考えても、10 %程度は妊娠しないカップルがいるのが現実。性教育もそうですが、正しい知識がまったく教えられていないのが大きな問題なんです。

――こうした女性をめぐる問題が解消されるどころか、強まっていくのはなぜでしょうか?

早乙女 想像力の欠如です。男女を入れ替えても大丈夫か、という立場で問題を考えないからですね。入れ替えてみて自分が嫌だと感じることを、男女ともに相手にしないことが大事だと思います。相席居酒屋なども、明らかな性差別です。「男性の欲求を満たすため」という目的があるから、女性が無料になっている。女性が男性と同等の賃金をもらっていたら「自分で払います」と断れるのに、中には払えない子もいる。女性は低賃金で貧困層が量産されているから、そういった日常に潜んでいる差別に気づかない。本当に構造的な問題ですね。
(弥栄 遖子)

(後編につづく)

早乙女智子(さおとめ・ともこ)
日本産婦人科学会認定 産婦人科専門医。1986年筑波大学医学専門学群卒業。国立国際医療センター、東京都職員共済組合青山病院、ふれあい横浜ホスピタル勤務などを経て、現在は主婦会館クリニック勤務。「性と健康を考える女性専門家の会」副会長、日本性科学会認定セックスセラピスト。著書は、『LOVE・ラブ・えっち』(保健同人社)、『13歳からの「恋とからだ」ノート』(新講社)など多数。

最終更新:2018/12/05 17:10
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