婦人科医・早乙女智子先生インタビュー(前編)

「男も世間も、女にラクをさせたくない」性の現場から語る、女性権利“不在”の日本の現状

2018/12/04 16:00
婦人科医・早乙女智子先生

 今年5月に発売された「日本性科学会」編集による『セックス・セラピー入門 性機能不全のカウンセリングから治療まで』(金原出版)は、性の喜びを得られない人をサポートするための医療従事者向けテキスト。前回、日本性科学会理事長の大川玲子医師に、セックス・セラピーの必要性について伺ったが、性は、健康だけでなく、人権の問題とも大きく関わってくる。今回は、女性の性と権利に詳しい婦人科医の早乙女智子先生に、女性の人権の現状についてお話を伺った。

■出産が楽しくないのは、女性の人権がないがしろにされているから

――早乙女先生は、『セックス・セラピー入門』で女性の性と人権についての章を担当されていますが、人権とは具体的には、どのようなことを指すのでしょうか?

早乙女智子先生(以下、早乙女) 女性が思うように生きられること、つまり女性が思ったことを口にしたり、行動したりできることが人権です。男性も女性もすべての人間が、自由・尊厳・平等に基づき、危害から保護されるのが当然です。世界性の健康学会(WAS)が発表した「セクシュアル・ライツ」という性の権利宣言があるのですが、改めてその中身を振り返る必要性がいま出てきています。女性差別に関しては、男女を入れ替えて考えると、どれもおかしいと気づくことが多い。

――先生から見て、女性の人権がないがしろにされていると感じるのは、特にどのような部分ですか?

早乙女 例えば「出産は楽しいですか?」と聞かれて、「楽しい」と答える女性は10%程度しかいません。一方で、「セックスは楽しいですか?」と聞けば、大半の人が「楽しい」と答えます。セックスは楽しいといえるのに、出産は楽しいといえない。女性の最大のライフイベントなのに、それが楽しくなくて、女性の人生が楽しいわけがありません。産婦人科の世界を見ても、内診の上半身と下半身を分けるカーテンを使っているのは日本だけです。日本では、ただ時間と効率だけを考えて分娩台を使うことが多いですが、それは出産を管理しやすいからです。

――世界では無痛分娩が普通なのに、日本では「無痛分娩だと愛がない」などと言われたりもします。

早乙女 それは日本特有の「女はラクをしてはいけない」という刷り込みです。とにかく男も世間も、女にラクをさせたくない。ラクをさせないっていうのは、人権をないがしろにしているということです。女は出産も育児もして、働いて介護もしろっていうのは、人として扱わなくていいと言っているのと同じことです。

――まさに“産む機械”にされているわけですね……。ただ、女性の中にも、不利な立場に置かれていることに気づかない人がいるように思います。

早乙女 例えば日本では、薬局でピルを手軽に購入可能にする認可がなかなか下りない現状がありますが、これも女性の人権をおろそかにしています。なぜなら、ピルは女性の体を守るためのものだからです。日本は先進国だといっても、ピルに代表される「科学の恩恵を受ける権利」がまるでない。海外では「#MeToo運動」が盛り上がって、女性の権利向上の動きが見られますが、日本ではそれほど大きな動きがありません。日本は本当に厳しい状況です。

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