「愛の葉Girls」自殺問題に見る、芸能界「カネの問題」とやりがい搾取 業界側の言い分

2018/11/25 20:00

「PASSPO☆」「ベイビーレイズJAPAN」など中堅アイドルグループの解散が相次ぎ、超大手と地下の二極化が進んでいるアイドル業界。10月にメディアを騒がせた地下アイドルの自殺事件をきっかけに、アイドル業界に蔓延している夢をエサにした“やりがい搾取”的な状況も衆目を集めることとなりました。

 芸能マネージャーが芸能ニュースの裏側をちょっぴり教えちゃう本連載、今回は新たな局面に進もうとしているアイドル業界、特に地下アイドルについて語っていただきます!

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 10月にワイドショーをこれでもかと騒がせた地下アイドルの自殺事件……。ギョーカイの端っことはいえ、芸能マネージャーという仕事を生業としている身としては、どうにも他人事には思えない胸の痛む事件でした。もちろん、あの事件自体はものすごく極端なケースで、あんなことがザラにあるのが芸能界……みたいなことはないですよ? 報道されていた内容の真偽のほどはこれからの裁判で明らかになっていくと思いますが、とてもじゃないけどまともな事務所ならあんなやり方はしないでしょう。でも、この事件にちりばめられているキーワードだけに関していえば、ぶっちゃけこの業界にはよくあることなんですよね……。

 今日は、キレイゴトだけでは済まない“アイドル育成の光と影”とでもいいましょうか、そこらへんの裏事情をお話できればと思います。

「タレントの学費を出す」なんてザラにあった昭和の芸能界
 あれだけ報道されていたのでみなさんすでにご存じだと思いますが、今回の騒動は今年の3月に愛媛県のご当地アイドルグループ「愛の葉Girls」(えのはがーるず)の大本萌景さん(当時16歳)が自殺した件で、所属事務所の社長や社員によるパワハラ、過重労働などが原因だったとして、遺族が損害賠償を求める訴訟を起こしたというもの。それがきっかけとなって、メジャーアイドルを夢見る少女たちを取り巻く劣悪な労働環境や、アイドル業界に蔓延している、憧れをエサにしたいわゆる「やりがい搾取」的な状況が問題視され、連日メディアを賑わせていました。

 自殺した大本萌景さんに関しては、事務所の社長が進学費用を貸し付けると言いながら直前で撤回したこと、学校と芸能活動の両立を阻害したこと、アイドル活動をやめると言いだした萌景さんに「違約金1億円支払え」と発言したこと、遅刻や忘れ物によるペナルティー罰金を科せられていたことなんかが真偽を含め問題とされているんですが……。

 さっきも言いましたが、普通のまともな芸能事務所だったら、こんなやり方はまずしないんですよ。でも、この事件にちりばめられてるワードって実は、特に若いタレントをマネジメントしている芸能プロにとってみれば、決して遠い世界の話ではない、そういう種類のことではあるんです。「お金を出す」とか「お金を貸す」、あるいは「学校に行く、行かない」とかね。所属タレントの学費を出してあげるなんて会社、たくさんあると思いますよ。というか、特に昔はそれが普通だったんです。

 それというのも、それこそ野口五郎さんや山口百恵さんの時代から、“スターになる子”が裕福な家庭の子であることなんて、ほとんどなかったわけですよ。昭和の時代には特に、親が借金してお金に困っているとか、スナックを経営して女手一つで子育てしているとか、そういう環境からアイドルになる子が見いだされるケースが多かった。この5月に亡くなった西城秀樹さんに関しては、有名暴力団の若頭の愛人をしていた実姉が尽力して彼を世に出した……なんて業界ではよく知られていた話を、この秋あたりに「週刊文春」が短期集中連載で記事化していましたよね。

 芸能事務所にとってはタレントの存在が何よりの飯のタネなので、とにかくいい人材を確保しないことには何も始まらない。たとえばの話ですが、大スターの素質がありそうなかわいい子を見つけることができたとして、でもその子のおうちが、それこそ生活保護を受けているような家庭だったとする。となれば、ある程度資金力のある芸能事務所だったら「お金は自分たちがなんとかするから、娘さんを預からせてください」って話に、そりゃあなりますよね。

 あるいは「学費を出す」みたいなところまでは行かなくても、まだまだ売り上げを上げるレベルではないような地方出身のタレントの卵を都内の寮に住まわせている事務所なんて、特に大手プロになればなるほどザラにあります。それもやっぱり、資金的なケアをしている、という意味では同じですよね。

 でもそういうのって芸能界に限ったことじゃなくて、たとえばプロ野球でもそうでしょ?  読売ジャイアンツが高橋由伸の親の11億円の借金を肩代わりしたというのは有名な話。こういう話って、実はどの世界にもあることなんです。でもそれが、こと芸能に関しては、一見華やかな業界であるがゆえになおのこと、目をつけられやすくもなってくるんですよね……。

 そして、そういうなんらかの事情がある家庭の場合、問題のある親御さんも中にはやっぱりいらっしゃるわけで。連絡しても全然つかまらないとか、アル中であるとか、離婚して行方知れずになっちゃったりとか。それこそお金を借りに事務所に来たり……というか、「うちの娘はナンボ稼いどんねん。1割よこせや!」なんて怒鳴り込んできた親もいました(笑)。まるでドラマかマンガみたいですけどね、ホントの話なんです。

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自殺問題の背景にある、構造的な貧困問題
 親やお金のこともそうなんですが、若いタレントを扱う芸能マネージャーの仕事の一番大変なところでもあるのが、「子どもと仕事をする」ということ。これがホント難しくて。さっき話したように、問題のある家庭環境の子も多いし、そうすると親がしっかりしていないケースも多々あるでしょ? となると、子どもがちゃんとしつけられていない、時間を守れない、勝手に休む、平気で人の物を盗む、悪口や陰口をものすごく言うとか、人として基本的なことができない子もたくさんいるわけです。

 そうすると、マネージャーによっては「罰金を取る」というやり方をする人も中にはいるでしょう、そりゃ。実際に取ることはしなくても、「遅刻すると罰金○円」「陰口たたくと○円」なんてふうに口約束するとかね。もちろん僕は、自殺したアイドルの子の事務所の人を擁護する気はまったくありません。ただ、そういうやり方で、なかなか言うことを聞かない子をなんとかしようとする人も、世の中にはいるでしょうね。「辞めるなら1億円払え」なんて言葉も、売り言葉に買い言葉で言ってしまったのかもしれない。

 でも、それを真に受けて彼女が亡くなってしまったことは本当に悲劇で。「そんなお金払うわけないし、バカ言ってんじゃないよこのオヤジ! じゃあいいよ、弁護士に相談するよ!」ってなればよかった。でもそんなことが考えられないほど彼女は追い詰められていたんだと思うし、そういう知恵を授けてあげられなかった彼女の親御さんも、本当にお気の毒だと思います。

 まあでもとにかく、そういう構造的なひずみが、あの事件の背景にはあるかもしれませんね。だからあの事務所の社長だけが絶対的な悪者で、すべてがあの社長のせいで起こったんだ、という単純な話ではないと思う。もしかすると当事者や芸能界の問題だけではなくて、この事件には、教育だったり福祉だったりという問題が、根深く横たわっているのかもしれません。

「それ、本当に売れると思ってやってますか?」
 あと、こういうことを僕が言っていいのかわからないけど、今回の事件の報道を見て、「あんな活動やってたって、絶対売れるわけねーじゃん」っていうような内容の仕事を、アイドルたちに一生懸命やらせてるという、そのことにもすごく驚きましたね。「農業アイドル」ということでスーパーで即売会だとか、野菜を売るとかしていたみたいですけど……。周りにいた大人たちは、本当に“売れる”と思ってそれをやらせていたんでしょうか? ちゃんと戦略を練って、「いつかメジャーアイドルになりたい」という少女たちの夢や希望に見合った活動をさせてあげていたんでしょうか? 小さいとはいえそれなりに歴史も規模もある東京の芸能プロで働いている自分としては、どうしてもそういうことを思ってしまうんです。

 それを考えると、たとえば女性アイドルでいうと、今年で20周年を迎えたハロー!プロジェクトって、やっぱりすごいなって思いますね。結果としていろんな問題を起こした子もいるけど、「研修生」からの育成システムがきちんと確立されているし、そして何より、つんくさんというカリスマ的な“プロデューサー”が、今は退いたとはいえ巨大な存在として控えていることの意味は、やっぱり大きいと思うんですよね。そういう人格的にも素晴らしい“師”がいて、それを見て女の子たちも自覚的に育つというか。秋元康さんみたいに、現場の子に手を出したりもしてないしね(笑)。

 まあとにかく世間の「地下アイドル」と呼ばれているタレントさんたちの活動を見ていると、運営している人たちの“志”がどこにあるのかよくわからない……という場合が多いなあというのが、僕の正直な印象です。

 それこそ、wezzy編集部のある渋谷にも、ヨレヨレのスーツを着て、たいしてかわいくもない(失礼!)女の子たちを引き連れて、小さなライブハウスのあるエリアまで道玄坂を上っていくギョーカイ崩れのおじさんをよく見かけるじゃないですか。ああいう風景を見ていると、「その子が本当に売れると思って、自信を持ってやっているの? ほかのアイドルと差別化してどう売っていくのか、ちゃんと考えてるの?」なんて問いただしたくなりますよね、どうしても。

 今年で活動15周年を迎えた新潟のご当地アイドル「Negicco」や、今年解散してしまいましたけど11年の活動を続けた「バニラビーンズ」など、大ブレークに至らないまでも長く活動を続けていくようなスタイルのアイドルたちももちろんいますけどね。

 でも、その子たちの大事な大事な一度きりの人生なんだから、絵空事の夢を見せてただ消費させるだけじゃなく、見込みがないなら見込みがないで、きちんと諦めさせてあげるというのも、僕ら芸能マネージャーの重要な仕事だと思っていますけどね。

(構成/白井月子)

最終更新:2018/11/25 20:00
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