猫の多頭飼育崩壊が問題化 去勢手術せず大量繁殖、飼育できず

2018/11/11 20:00

 昨年12月に「一般社団法人ペットフード協会」が発表した全国の犬と猫の推計飼育数で、猫の飼育数が初めて犬を上回ったことが大きく報じられた(猫・953万匹、犬・892万匹)。空前のペットブームと言われる昨今、特に猫を飼う世帯が増えていることがこのデータからも明らかだが、それと同時にクローズアップされているのが、愛猫家向けの猫ビジネスにおける問題点だ。

 「週刊女性」(主婦と生活社)11月13日号ではこうした現状について特集が組まれている。記事によれば猫ブームにおける販売頭数増加の影で、繁殖数増加のため、1年間に3回ほど繁殖をさせることも普通なのだという。そのため繁殖用の雌猫には相当な負担がかかり、歯や骨がスカスカになってしまうというのだ。また犬ほど種雄の数が多くない猫は、より近いところでの近親交配となるため、遺伝性疾患も懸念されているという。

 ブリーダーの繁殖からショップまでの小売までの間で、犬猫合わせると年間2万5000頭が病気などで死んでいるという衝撃の現状も明かされた。しかもこれは2016年度に殺処分された犬猫の半数に近い。殺処分数は減少しているにもかかわらず、愛猫家向けビジネスのために多くの猫が命を落としている。

 猫ブーム加熱によりこうしたビジネス的な問題点が浮上すると同時に、猫の飼育によるトラブルも頻発している。その代表格が『多頭飼育』による崩壊だ。

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「お金がなくて去勢できない」飼い主に無料で手術提供
 多頭飼育崩壊とはペットの大量繁殖で飼育ができなくなることを指す。去勢避妊手術を行わないまま飼育を続けることにより猫が繁殖してしまうのである。行政もようやくこの多頭飼育崩壊を問題と捉え始め、多頭飼育をする場合に届け出を義務付ける自治体も増えてきた。この10月には、神奈川県でも10匹以上の犬や猫を飼育する場合に届け出を義務化する方針を固め、今後、県議会に関連条例の改正案を提出する見込みとなっている。

 そんな多頭飼育の現場に日々向き合うNPO法人「ねこけん」(東京都練馬区)は、2017年春から飼い猫も、野良猫も無料で(※一部有料)避妊去勢手術を行なう「ねこけん動物病院」の運営を始めた。運営費はペットフードのネット通販「560shopping」の会費で賄っている。

「レスキューの現場で、多頭飼育崩壊者たちから『お金がなくて手術できなかった』という話を何度も聞いて来たので、だったらその問題を解決しようと病院を作りました」

 こう語るのは同法人代表理事・溝上奈緒子さん。だがそうはいっても、活動のためには資金が必要だ。そのため、ねこけんは10月28日、こうした活動を継続するための一環としてチャリティイベントを東京・六本木にて開催した。

東京だけでなく日本中で殺処分機が撤去されてようやく第一段階
 溝上氏と親交の深い、ある愛猫家の呼びかけにより実現した今回のイベントは、千葉県いすみ市による食材提供を受け、フレンチレストラン「ラフィネス」の杉山敬三シェフをはじめ、イベント趣旨に賛同した一流シェフらが腕を振るう“食べて応援”型のチャリティイベントである。

 また、今年9月まで放送されていた『生き物にサンキュー!』(TBS系)の「保護にゃんハウス」でお馴染みだった、ハニートラップ・岩ちゃん、日向カンナによる食レポなども行われた。この日の8000円の会費や集まった寄付金はすべて、保護猫達の医療費、不妊去勢手術が無料で出来る動物病院作りや保護活動に充てられる。

「段階を踏みながら、全国へねこけん動物病院を展開する事を考えています。病院も一時期よりはだいぶ落ち着いてきました。連日コンスタントに予約が入って来ていますが、最近は遠方から連れて来られる方が増えています。そこで、今、出張手術も考えています。
私は東京だけが殺処分ゼロになれば終わりとは考えていません。日本から殺処分機が撤去され、過去の負の歴史の中に封印されてこそ、やっと第一段階が終わったと言えるかもしれません。まだまだ先は長いかもしれませんが、こうして、多くの方が様々な形で活動に賛同し、参加し、応援してくださる事は、本当にありがたい事です」(溝上さん)

 「ねこけん」は、多頭飼育崩壊レスキューと譲渡会を行うだけでなく、多頭飼育崩壊に陥る可能性の高い飼い主へのケアなども行う。また「ねこけん」には“飼えなくなったから引き取りに来てくれ”と、驚くような相談も寄せられる。筆者は「ねこけん」の協力のもと、こうした身勝手な飼い主らの言い分を取材してきた。次回からこの実情をお届けしたい。

(高橋ユキ)

最終更新:2018/11/11 20:00
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